Dentalism39号
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21 Dentalism 39 MAY 2020阪井 まず、内科では口の中を診ること自体があまりありません。一般の歯科医院でも、意外に歯や歯茎以外を診ていないというか、見ているんでしょうけど認識していないことが多いのではないでしょうか。さらに、歯科では大学時代に口腔カンジダ症について教えられているはずなのですが、当時学んだものと現在では少しずつ病態が違ってきていることも大きな理由だと思います。││具体的にはどのように変わってきているのでしょうか。阪井 先ほど申しましたように、米糠のようなものが口腔粘膜にべったりついているような症状の方が昔は多かったのですが、最近では舌が赤くなるとか、しこりが出来る、口の角が割れるというような症状で、時代と共に少しずつ病態も変わってきているようです。また、高齢の患者さんが口の違和感などの症状を訴えても、先ほどのケースのように年齢のせいにされてしまうことも多いのでしょう。││やはり口腔カンジダ症に罹患する要因としてはドライマウスが多いのでしょうか。阪井 そうですね、ドライマウスが最たる要因だと思います。ただ、一言でドライマウスと言いましても、加齢が原因の場合もありますし、多剤併用の影響も考えられます。特に、高齢の方ですとお薬を何種類も処方されていまして、10種類20種類飲んでいる人も珍しくありません。血圧を下げる薬だったり、睡眠薬だったり、安定剤だったり、花粉症などの抗アレルギー薬もあります。その中には、唾液の分泌を抑制する成分が入っている薬が多くあるのです。││いわゆるポリファーマシーということですね。阪井 そうですね。足し算になっているのか掛け算になっているのか分からないですけれども、気が付けば唾液が出ない状態の口が出来上がっているわけです。さらに危険なのが、口の赤くなった患者さんを口内炎と診断して、ステロイド軟膏を処方してしまうことです。これは、残念ながら内科でも耳鼻科でも歯科でもよくあることなのですが、ステロイドはカンジダには効かないどころか、増殖の温床になってしまいます。一時的に赤みは引きますが、逆に慢性化する原因になってしまいます。あとは、喘息用のスプレーも要注意です。「使用後に必ずうがいをしてください」という注意書きがありますが、あれはステロイドの長期使用によるカンジダなどの菌の繁殖を抑えるという意味なんです。││治療法としては、薬物療法が一般的なのでしょうか。阪井 そうです。成分はもちろん、内服液や注射薬、塗り薬など様々ありまして患者さんによって使い分けておりますが、個人的には安全性や使いやすさの面で局所療法のミコナゾール製剤を使用するケースが多いように思います。注射薬などは即効性がありますが、副作用が強く出てしまうケースもありましたから。最近では、従来の経口ゲル製剤に加え、口腔粘膜付着型製剤も発売されまして、使いやすくなっています。││口腔粘膜付着型製剤とはどんなものですか?阪井 1日1回、犬歯窩(歯茎のくぼみ)に付着させるだけで、長時間に亘り唾液中のミコナゾール濃度を維持できるというものです。高齢の患者さんですと、毎日、複数回塗布しなければいけないとなると負担になったり、忘れてしまうケースも多いですから。結果的に、患者さんの服薬アドヒアランスの向上につながるのかと思います。││使用に関する注意点などはあるのですか。阪井 さきほど多剤併用の話をしましたが、ミコナゾールには使用禁忌の薬がいくつかあります。例えば私の患者さんは、コレステロール値を下げるスタチンという薬を飲んでいました。海外では、80歳以上の高齢の方にスタチンを処方することについて賛否両論あるのですが、日本では飲んでおいた方が安全だということでよく処方されている薬です。ですから、私から内科の先生に、スタチンだけ2週間ほど休薬していただけないかとお手紙を書いたのです。内科の先生としては口腔カンジダ症という考えがないので、なかなか認めていただけなかったのですが、なんとかやめていただけました。それでミコナゾールを処方したところ、1カ月ほどしたらほぼ口腔カンジダ症の症状がなくなったんです。結果的に、患者さんはもちろん内科の先生にも感謝されたということがありました。││正確に診断して治療につなげることが大切なんですね。これから高齢化社会が進むに伴って、加齢や多剤併用による口腔カンジダ症が増加するリスクが高くなっているかもしれませんね。阪井 食べることは高齢者にとって非常に重要なことですから、歯科でも医科でも口腔カンジダ症に対する認識を新たにして臨んでいかなければいけないと思います。口腔カンジダ症の最新事情

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