Dentalism39号
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19 Dentalism 39 MAY 2020 近年、歯科受診によって咀嚼能力をはじめとした口腔機能の低下に早期に気づくことが重要だと考えられている。加齢に伴い歯数が減少し、咀嚼能力が低下することで、栄養摂取に悪影響を及ぼし、最終的にメタボリックシンドロームや動脈硬化性疾患の発症へと繋がることがこれまでの研究で示唆されている一方、歯科定期受診と咀嚼能力との関係についてはほとんど報告がなく、そのエビデンスが求められていた。 国立循環器病研究センター予防健診部の宮本恵宏部長、新潟大学大学院医歯学総合研究科の小野高裕教授、大阪大学大学院歯学研究科の池邉一典教授らの共同研究チームは、無作為抽出した都市部一般住民である吹田研究の参加者を対象に解析。その結果、継続的な歯科定期受診のある対象者は、咀嚼能力が低下しにくいことが明らかとなった。これまで多く報告されてきた、歯の数や咬み合わせの状態などの形態的な因子だけでなく、歯科定期受診という行動科学的因子が咀嚼能力に影響を及ぼしているというのだ。 研究グループによると、歯科治療による対応だけでなく、口腔健康への関心を向上させるポピュレーションアプローチが口腔機能低下を予防し、ひいては、動脈硬化性疾患やフレイル予防の新たな戦略になるとのこと。そのためには、医科歯科連携のもと、さらなるエビデンスを構築していくことが今後の課題となるだろう。定期的に歯科受診をしている人は、咀嚼能力が低下しにくいことが判明。■咀嚼能率低下率を目的変数とした重回帰分析年齢咀嚼能率歯数咬合力唾液分泌速度継続的な歯科定期受診の有無-0.0030.0000.0260.0000.031-0.035n=1010年齢、咀嚼能率、歯数、咬合力、唾液分泌速度は、1回目検診時のデータである。1回目、2回目検診時のどちらも歯科定期受診ありの者を、「継続的な歯科定期受診あり」とした。咀嚼能率変化率=(2回目検診時の咀嚼能力ー1回目検診時の咀嚼能力)÷1回目検診時の咀嚼能力×100偏回帰係数0.023<0.001<0.001<0.0010.0010.032P値-0.064-0.5480.4220.1530.089-0.057標準化偏回帰係数オーラルフレイルの危険性がある人は5割以上。食習慣やコミュニケーション量に問題も。 サンスターが一般男女600名を対象に行った「オーラルフレイルに対する意識調査」によると、65歳以上の高齢者の5割以上がオーラルフレイルの危険性があると判明した。さらに64歳以下の人も、習慣的な歯や口周りのケア方法に改善の余地があり、年代を問わずオーラルフレイル予防の必要があることが分かった。 65歳以上の人のリスクチェックの結果を見ると、具体的なオーラルフレイルの症状である「口の乾きが気になる」「さきいかやたくあんぐらいの硬さのものが噛めない」などの項目で、5人に1人以上が該当。さらに、「歯科医院の受診は1年に1回未満」の割合は28%にも及び、65歳以上の人でも多くの人が定期的なプロケアを受けていない実態が明らかになった。 生活習慣では、「忙しい時など早食いをしてしまう」(51・8%)、「普段硬いものをあまり食べない」(36・6%)と、いずれもオーラルフレイルの危険性がある人、高い人は低い人に比べて10%程度高い結果に。また、「人とほとんど話さない日が週に1日以上ある」の設問でも36・6%と10%程度の差が見られ、コミュニケーションが少なく食事以外で口を使う機会が少ない可能性があることも分かった。 さらに、オーラルフレイルの危険性がある人、高い人は食べたいものを我慢している割合が2倍以上高く、その理由として、「歯の間に物が詰まる」、「歯茎に痛み、出血などの不安がある」、「噛む力が弱い」が挙がった。こういった些細な口腔機能の低下に早く気づき適切な対応をとることは、全身の健康状態の維持、改善に繋がるはずだ。■オーラルフレイルの危険性 あり・高い/低い人の生活習慣比較早食いしがち硬い物をあまり食べない人とほとんど話さない日が週に1度以上あり・高い低い51.8%42.1%36.6%23.7%36.6%27.5%

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