Dentalism39号
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15 Dentalism 39 MAY 2020です。外側から刺激を与えて覚醒状態を良くするという意味合いもあります。――覚醒状態とはどういうことですか?松宮 年を取って低栄養状態になっていくと、すぐに寝てしまうおじいちゃんやおばあちゃんがいらっしゃると思うのですが、あれは覚醒していないということなんです。そのような覚醒がない方に嚥下治療を施しても意味がありません。覚醒状態にないということは半分意識がない状態ですので。私たちでも寝ているときに食べ物を口の中に入れられると誤嚥してしまうと思いますが、それと同じようなことです。――おじいちゃんやおばあちゃんが時々ぼーっとしていることがありますが、それは覚醒状態にないということなんですね。松宮 そうです。それは覚醒が落ちているということです。「はい、食べましょう」と言っても、口も開けてくれません。そこで無理矢理口の中に食べ物を入れても、気管に入ってしまって誤嚥してしまいます。ですから、どうやって覚醒状態を良くしていくかが重要なんです。例えば、糖尿病に罹患していて血糖値がコントロールできない方の場合、低血糖で覚醒状態が悪くなることもあるんですね。そういった場合には、内科の先生と相談してお薬を調整していただくことも重要になってきます。――口腔だけでなく全身の状況を考慮した上で対応していくことが必要なのですね。松宮 はい。独自に作成した詳細な診療アルゴリズムに基づきまして、患者さん一人ひとりに合った、きめ細やかな対応をさせていただいております。――嚥下治療専門のクリニックならではですね。外来診療ではどのようなことをされているのですか?松宮 嚥下障害に対応していることはもちろんですが、一般歯科やホワイトニングなども行っております。――訪問と外来の両立は難しくはありませんか?松宮 実は、訪問診療に注力しているおかげで、それが外来診療にも良い影響を及ぼしているのです。嚥下障害で患者さんに関わらせていただくと、ご本人だけでなく、そのご家族とも長く関わることになります。それも非常に近しい形で。そうなりますと、ありがたいことにご家族の中で歯に問題があった場合、「いつも面倒をみてくれているからもぐもぐクリニックさんでお願いします」と言っていただくケースが多いのです。――実際、歯科医院がたくさんありすぎて、どこに行けば良いのか分からないという方も多いですから。将来的に患者さんになり得る地域の方とそういった関係性を築くことが出来るメリットもあると。松宮 そうです。ご家族だけでなく、近所の方を紹介していただいたり、嚥下リハビリ以外の一般歯科診療の集患にもつながっています。おかげ様で初年度から年商1億円を超えました。今年中には、世田谷区にも分院を作りまして、さらに裾野を広げていきたいと考えています。――一般歯科でもなかなか開業初年度で1億円を突破するのは難しいのではないですか。新たなビジネスモデルとしても注目を集めそうですね。松宮 これは私たちだけでなく、どのようなジャンルの歯科診療でも同じだと思うのですが、患者さんが来られるのを待つのではなく、いかにこちらから情報提供をして、診てもらいたいというニーズを掘り起こしていくことが、これからの経営には必要だと思います。――今後の展望をお聞かせください。松宮 正直なところ、加齢による嚥下障害は完全に治るというものではありません。どれだけ早い段階で見つけてあげて、現状をキープできるかが大事です。ですから、少しでも嚥下機能の低下がみられたら、まず検査をしてほしい。そうすれば、悪化する確率が格段に低くなります。そのような社会を作っていくためには啓蒙活動を続けていくしかありません。ですから、診療と同じぐらい勉強会や講演会に力を入れていこうと思っています。介護チームの中心になっているケアマネージャーさんはもちろんですが、同様に理学療法士さんや作業療法士さんも患者さんと密接に関わられています。そういった方々に啓蒙していくことによって、「飲み込みが悪くなったんだったらこういうクリニックに行った方がいいよ。検査を受けてみた方がいいよ」と患者さんに促していただきたい。外部の人に言われるよりも、より身近な人に言われた方が患者さんも動かれる場合が多いですので。あわせて、ご家族様などの一般の方にも情報発信などのアプローチをしていきたいと考えています。東京都府中市にあるクリニックを基点に、半径16km以内のエリアを対象に訪問診療を行っている。嚥下機能の検査は、詳細なスクリーニングを行った後、嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査を行い、結果に基づいた治療やリハビリテーションのプランを立てている。

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