7Dentalism 38 MARCH 2020ン病院に入院している患者さんの7割が脳卒中で、残りの3割は脊髄損傷だったりリウマチだったりと、ほとんどが車椅子に乗られた患者さんでした。私も30歳になるかならないかで結構血気盛んで、自分の手にかかれば治せない虫歯など1本もないぐらいの気になっていたのですが、もちろん脳卒中の患者さんの口の中を診ること自体初めてでしたし、車椅子に乗られているというということで、「えっ」という感じでした。しかも、そこで診た患者さんの口の中が、今まで見たことないような光景だったのです。歯垢や歯石はもちろん、食べかすだとかそんなレベルではなく、食べ物自体、例えばバナナがそのまま残っているような状況でした。当然、虫歯だらけでその治療をしていくわけですが、いくら虫歯を治しても噛めないし飲み込めないのです。今考えてみれば当たり前なのですが、当時は歯さえ綺麗に揃えれば何だって食べられるものだと思っていましたから、それが全く通用しないということに愕然としました。――植田先生にとっても、これまでに経験したことがない、未知の状況だったのですね。植田 脳卒中の後遺症は手足だけでなく、口や喉、唇、舌、頬っぺたにもあって、機能としても麻痺しているんです。その上、お医者さんたちが口の中を診ることはないですし、我々歯科医師だって脳卒中の患者さんの口の中を診たという人はほとんどいない。本人ですら自分の口の中がどうなっているか分からない。ですから、まさにパンドラの箱を開けたような感じでした。――そこから、どのような経緯で治療をするに至ったのですか?植田 私が患者さんの口の中の写真を撮っていたら、医科の先生方に「口の中の写真って撮れるのですね」と言われてその写真を見せたんです。そうすると、例によって食べ物が張り付いていたりとか、全ての歯が根っこだけの状況になっていたりというような感じですので、皆さんびっくりされまして、自分が担当している患者さんの口の中がこんなことになっているのかと。嚥下障害はその当時も問題になっていて、嚥下造影検査などで診断していたのですが、咀嚼もまともに出来ない人が嚥下をまともに出来るわけがないということに、ようやく気付いてもらえたのです。逆に、私自身は嚥下のことをあまり知りませんでしたから、こちらも医科の先生方に色々教えていただきました。そんな中で、ストレッチ運動や筋力増強訓練などのリハビリテーション療法を口腔領域にも導入しようと取り組むようになったのです。――その後、新潟大学にも行かれていますよね?植田 東京都リハビリテーション病院では次々と依頼が増えて充実した日々を送っていたのですが、同時に、これだけの需要があるのはこの病院や東京だけではなく全国的な問題なのだろうなと思うようになりました。それで、自分一人で何をやったところでだめだと、摂食嚥下療法を広めていかなくてはならない。そのためには人材育成が必要になってくるのだろうなと。そんなときに、新潟大学から歯学部病院の中に日本で初めて摂食嚥下リハビリテーション外来を立ち上げたいということでオファーがあり、人材育成の観点から新潟行きを摂食機能療法学講座を持つ日本大学歯学部付属歯科病院。
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