鎮魂と祈りの3月11日、東日本大震災から今年で9年目を迎えます。 岩手県大船渡市の三陸町綾里にある国保歯科診療所に、復興と地域医療に燃える歯科医師の熊谷優志(やさし)所長(49)がいます。人呼んで「世界一優しい歯医者さん」です。 ふるさと大船渡の診療所に赴任して20 年にわたる地域医療活動のなかでも、3・11の地震と津波による被害はもっとも苦しい体験でした。綾里地区では、明治28年(犠牲者1269人)昭和8年(同180人)の「三陸大津波」の経験から、住宅の高台移転や「津波てんでんこ」などを教訓化し、3度目の東日本大震災では犠牲者を31人に留める「減災」に成功しました。 しかし前年新築したばかりの診療所の地震による損傷は激しく、熊谷所長と歯科衛生士4人の診療チームは、仮設診療所から避難所を回って口腔ケアや応急処置に奔走しました。 全国の歯科の仲間たちから熱い支援が行われ、4月の仮設診療所開設に続いて翌年8月には本設の診療所を復興させました。彼は「皆さんには一生分お世話になり、一生に流す以上の涙を流しました」と語ります。 熊谷所長は昨年11月に開催された「岩手県地域医療研究会秋季集会」で「3・11東日本大震災の被災状況と診療所復旧」を発表し「特別賞」を受賞。あわせて昨年、校医を務めている綾里中学校が「岩手県学校歯科保健優良校表彰」で「最優秀賞」を受賞しました。タイトルは「学校歯科保健から地域歯科保健へ」。 20年前、赴任して初めての健診で地区の生徒1人あたりのDMF歯数は4.8本あることが分かりました。2003年彼は「綾里地区の子どもの歯を守る会」を結成し、地域ぐるみで予防に取り組みました。そして、2018年には0.5本、15年でむし歯を10分の1まで減少させたのです。地域と一体となって努力した素晴らしい成果でした。 復興も地域保健も、地域が一丸となってこそ実現できること。「世界一優しい歯医者さん」は地域の健康の守り手であるとともに地域づくりのキーマンなのです。復興と地域ぐるみの健康作り文・菊池恩恵[デンタリズム]http://www.dentalism.jp発行人/寺西秀樹編集人/長田英一発行所/株式会社 金沢倶楽部〒100-0006東京都千代田区有楽町2-10-1 東京交通会館6階 LEAGUE有楽町TEL 03-6268-0718FAX 03-6268-0717■編集後記菊池恩恵(きくち・めぐみ)1953年岩手県出身。歯科医院の経営を支援する株式会社コムネット代表。http://comnt.co.jp/歯科業界のコミュニケーションマガジン『Dentalism(デンタリズム)』は、第37号も多くの皆様から反響をいただきました。その中の一部をご紹介します。「スペシャルインタビュー」の和泉雄一先生のお話が参考になりました。歯周病が世間で取り沙汰される前から、研究や臨床を重ねてこられた和泉先生のお言葉にはやはり重みがあります。和泉先生の若々しい姿と、これだけの方が新天地で新たな挑戦をされていることに驚きました。周術期における口腔ケアの重要性は、年々需要が高まるばかりです。今後、さらに様々な場所で歯科医療が必要とされるようになり、歯科医師の仕事の幅が広がりそうですね。 新潟県 K歯科医院様日本における歯周病研究の第一人者である和泉雄一先生。物腰柔らかな話し方からは誠実なお人柄が滲み出ていました。長年研究を続けていらっしゃる和泉先生ですら、「口の中はまだまだ分からないことだらけ」だそうです。その探求心が原動力の一つになっているのでしょう。「東京西徳洲会病院の佐野次夫先生の記事を拝見いたしました。全国でもあまり例がない口腔外科外来を実現させるには並々ならぬご苦労があったように思います。『医科歯科連携やそれに基づく全身疾患管理トレーニングは限られた人の問題ではない』『患者さんを治してあげたいという情熱があるか』という佐野先生のお言葉が心に響きました」 福岡県 Y歯科医院様東京西徳洲会病院の口腔外科部長としてだけでなく、全国各地の徳洲会病院に所No.38 MARCH 2020Dentalism 38 MARCH 202036属する全歯科医師の統括部長として、忙しい日々を送られている佐野先生。しかし多忙の中、取材中も溢れんばかりのエネルギーで、取材する側まで元気になるほど。歯科医療人として自らの信念に基づき、理想を現実のものにするという強い想いが感じられました。「過去の『デンタリズム』を見るにはどうすればよろしいでしょうか?」 兵庫県 M歯科医院様バックナンバーの配布は行っておりませんが、ホームページ(http://www.dentalism.jp/)上でデジタルブックをアップしております。そちらで内容をご確認くださいますようお願い申し上げます。その他にも多くの皆様よりメールやお電話などでお問い合わせやご要望をいただきました。本当にありがとうございました。なお、『デンタリズム』では、取材依頼や告知協力の相談につきましても随時受け付けております。お電話又はホームページの問い合わせフォームよりご連絡下さい。震災後4月に開設した仮設診療所前で2016年。被災地歯科訪問団と綾里の津波被災地を説明する熊谷先生
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