Dentalism37号
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7 Dentalism 37 WINTER 2019100台ぐらいあります。――通常の医科の救急外来と何が違うのでしょうか?佐野 口腔内に大量の出血がありますと、呼吸が出来なくなる恐れがありますので、高度救命救急センターであっても気管を切開する場合が多いんです。しかし、我々は口腔専門ですので、初期にしっかり止血ができます。また、顎関節が折れている場合に、骨折自体を治すことはもちろんですが、形状や咬み合わせなどその後の口腔機能の回復も考えていかなければなりません。少しでも咬み合わせに問題があれば、咀嚼に影響することはもちろん、肩こりや頭痛など全身の後遺症にも繋がりかねません。また、歯が折れている場合では1回法インプラントを使って短時間で修復しますが、骨折した顎にインプラントを入れるのも技術や経験がないとなかなか難しいと思います。あとは、顔面ですから審美的な面も大切になってきます。大きな傷を顔の外に作ったりですとか、昔は結構ラフに行っていたこともあったようですが、傷を表に見せないことはもちろん、手術が終わった後でも何があったかわからないような状態にしてあげるということが極めて大切ですね。――そういった面でも口腔外科の救急外来があるという意味があるのですね。短時間ということも重要なんですか?佐野 やはり処置を早くすればするほど早く治りますし、陳旧性になればなるほど治療は難しくなります。――他科との連携も必要な場合が多いのではないでしょうか?佐野 ほとんどのケースがそうなのですが、特に交通事故で大きな損傷がある場合は、脳神経外科や整形外科など他の診療科とチームを組んで対応しなければなりません。また、頭頚部のがんも他科と連携しての手術と術後管理が欠かせません。――佐野先生はどのように医科の勉強をされたのですか?佐野 口腔外科の道を選んだのも、歯科の中で医学に一番近い診療科だからという理由でしたので、埼玉医科大学付属病院の口腔外科にいた際に、臨床をやりつつ医学的な研究もして医学博士の資格を取得しました。生理学から生化学、薬理学、病理学、解剖学など、とにかく勉強の日々でした。――そこまでされる方はなかなかいないのではないでしょうか。そのバイタリティはどこから来るのですか?佐野 目の前の患者さんをしっかり治してあげたいという想いが一番です。しかし、研修医時代は治してあげたくても技術もないし知識もありませんでした。そういう悔しい想いを胸に、勉強を積み重ねて現在があるという形です。――そういった佐野先生だからこそ実現出来たわけですね。そもそも歯科口腔外科が救急外来をするのは全国的にも珍しいのではないですか?佐野 正直なところ、口腔外科では人的な問題もあってなかなか難しいのが現状ではないでしょうか。約10年前に私一人でこの歯科口腔外科救急を始めたのですが、当初はオンコールという形でやっていました。ただ、正月などは1時間ごとに呼ばれるといった具合に、あまりにも患者さんが多かったので、それであればここにいた方が良いかと当直にしたんです。それから3年ほど続けていたのですが、さすがに一人では限界がありますので、スタッフを一人ずつ教育して、一人増え二人増えという感じで毎年1人ずつ増やしていき、現在では10名の体制になっています。――スタッフ教育の難しさもあるように思います。佐野 やはり、一般の歯科医療しか勉強していない人間が口腔外科救急をやるということは相当大変なことだと思います。先ほども言いましたように、短時間のうちに全身のバイタルや血圧、脈拍といったことを全て認識した上で診療をしなければいけませんから、歯科だけの知識では対応できません。医科の知識が絶対不可欠です。ただ、それは何も特別なことではなくて、口腔外科で働くためには本来は必要なことなんです。その中で医科も歯科もなく治療をしていかなければいけません。あと、大前提となるのが、患者さんを治してあげたいという情熱があるか。もちろん、仕事をすることでお金がもらえるなどの対価はあるわけですけれども、いかに金儲けをしようと考えている人はダメでしょうし続かないでしょう。また、いろんな患者さんと接するためには医療の技術も必要ですが、やはり人間性や人間力が大切です。――医科との連携は今後ますます重要になりますね。佐野 医科歯科連携やそれに基づく全身疾患管理などのトレーニングは限られた人の問題ではありません。全身疾患や循環動態、服用薬などに関する知識や経験は、これからの高齢化社会において、歯科医療現場でも当たり前のこととして要求されるようになるはずです。しかし、今の歯科界はそのような社会的なニーズに十分応えられていないように思います。

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