Dentalism37号
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 朝8時半、黄緑色の車が銀行のATMコーナーの横から動き出しました。「あしがら西湘歯科診療所」の訪問診療車の出動です。院長の木森久人先生(41)が歯科助手と二人で在宅や施設、病院にいる歯科医院への通院が困難な患者さんのもとを訪ねているのです。 鶴見大学で高齢者歯科学を学び、長野や新潟のJAの診療所に勤務して農村地帯の訪問歯科診療に携わってきた木森先生は、外来・送迎・訪問と地域内のあらゆる歯科医療に対応できる診療所をめざして7年前に神奈川県湯河原町に診療所を開設しました。元JAバンク、医局の壁には巨大な金庫の扉がそのまま残っています。 「湯河原はきれいな海と温泉が自慢の観光地ですが、人口2万5千人のうち65歳以上の人口が1万人、高齢化率が40%を超える歯科医療の過疎地でもあります」。 診療理念は「食べよう! しゃべろう! 笑おう!」、外来がユニット2台、常勤の歯科医師が1名で1日約20人を診療しています。院長が担当する訪問診療は朝8時半から休憩をはさんで夜6時半まで、東は小田原から箱根、西は熱海から三島まで、半径16キロの診療圏の海岸から山の上まで1日およそ15人の患者さんを回っています。 「訪問診療には患者さんの『生活』に直接向き合う緊張感と醍醐味があります。入れ歯を作り胃瘻から経口摂取に変わって元気になられて喜ばれるなど、『口から食べる』ことが人間らしく生きる根源であることを日々感じています」と木森先生。 入れ歯の製作中に亡くなられ、ご家族が「新しい入れ歯で食べることを楽しみにしていたのでお棺に入れてあげます」と受け取りに来られることもたびたびあるといいます。 鶴見大の恩師菅武雄先生の「外来の患者さんと訪問の患者さんには違いはない」という教えを胸にハンドルを握る木森先生。「訪問診療を行っている歯医者さんが少なくて今はまだ『ありがとう』と言われる時代ですが、これが『あたりまえ』と言える時代が来ることを願っています」。爽やかな笑顔の奥に熱い思いがほとばしっています。「ありがとう」を「あたりまえ」に文・菊池恩恵[デンタリズム]http://www.dentalism.jp発行人/寺西秀樹編集人/長田英一発行所/株式会社 金沢倶楽部〒100-0006東京都千代田区有楽町2-10-1  東京交通会館6階 LEAGUE有楽町TEL 03-6268-0718FAX 03-6268-0717■編集後記菊池恩恵(きくち・めぐみ)1953年岩手県出身。歯科医院の経営を支援する株式会社コムネット代表。http://comnt.co.jp/歯科業界のコミュニケーションマガジン『Dentalism(デンタリズム)』は、第36号も多くの皆様から反響をいただきました。その中の一部をご紹介します。「JIADSの理事長でもある『タキノ歯科医院』瀧野裕行先生のインタビューが興味深かったです。瀧野先生が言われる、『外に出て行って自分に気付きを与えないと井の中の蛙になってしまいます』という言葉が印象に残りました。おっしゃる通り、一人でモチベーションを維持したり、上げていくのは相当難しいことは分かります。勇気を持って一歩踏み出す大切さを改めて感じました。良い機会を与えていただいてありがとうございました」 愛知県 H歯科医院様瀧野先生ご自身も、JIADSのコースを受講されて「仕事が楽しくなりました」とお話されていました。その背景には、多くの先輩方や仲間との出会いがあったと思います。現在は、様々なスタディグループや学会がありますので、診療室に閉じこもらずそういった場に足を運べば何か得るものがあると強く言われていました。「東京医科歯科大学の小野卓史教授の記事を読ませていただきました。咀嚼や呼吸などの口腔機能と脳や全身との関わりについてぼんやりとは知っていましたが、これほど密接に関係しているとは思いませんでした。特に、高齢者の認知症リスクへの影響はこれからの時代において重要です。残存歯数は当然のこと、高齢になってもしっかり咀嚼できるかどうかを診ていくのかは私たち歯科医師の役割でもありますね」 神奈川県 K歯科医院様No.37 WINTER 2019 Dentalism 37 WINTER 2019 28子どもの学習機能の低下や高齢者の認知症リスクへの影響、スポーツにおけるパフォーマンス向上との関わりなど、咀嚼や呼吸などの口腔機能と様々な全身機能との関係をお聞きすることができました。歯周病やう蝕の治療だけでなく口腔機能をどう維持・改善していくかが歯科界の課題になっていることは間違いないようです。「過去の『デンタリズム』を見るにはどうすればよろしいでしょうか?」 大阪府 Y歯科医院様バックナンバーの配布は行っておりませんが、ホームページ(http://www.dentalism.jp/)上でデジタルブックをアップしております。そちらで内容をご確認くださいますようお願い申し上げます。その他にも多くの皆様よりメールやお電話などでお問い合わせやご要望をいただきました。本当にありがとうございました。なお、『デンタリズム』では、取材依頼や告知協力の相談につきましても随時受け付けております。お電話又はホームページの問い合わせフォームよりご連絡下さい。訪問診療中の木森先生訪問診療を終えてパチリ

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