Dentalism37号
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17 Dentalism 37 WINTER 2019 ライオンが行った次世代シークエンサーによる細菌叢解析技術を駆使した研究により、乳幼児の口腔細菌叢の形成に両親の口腔細菌叢が深く影響していることが明らかになった。乳幼児の口腔細菌叢は生後1週間ですでに数十種類の細菌が認められ、その後徐々に菌種が増加し、両親の持つ菌種の多様性に近づいていく。また、親子間では非親子間に比べ口腔細菌の共有率が高く、この傾向は生後1週間ですでに認められ、乳幼児の成長とともに共有率も高まることが判明。また、父親と母親との共有率で有意な差はなく、母親だけでなく父親からも同等の影響を受けることもわかった。 さらに、親子間の口腔細菌共有率が高かった家族と低かった家族で生活習慣のアンケートを行った結果、保育園に通っていない子どもは母親との共有率が高いことや、父親とのスキンシップの頻度が高い子どもほど父親との共有率が高いことなどが明らかになった。しかしながら、両親のスキンシップは子どもの成長のために欠かせない。将来、子供が口腔疾患にかかるリスクを低くするためにも両親の口腔ケアが重要になってくる。乳幼児の口腔細菌叢の形成に両親の細菌叢が深く影響。■各月齢の子ども及び父母の唾液中の検出菌数の数■子どもの成長に伴う父母との口腔細菌の共有率の変化200150100500403020100**p<0.01(Steel-Dwasstest)検出菌種数共通する最近の比率(%)1週間1週間1か月3か月6か月9か月1歳1歳半父母1か月3か月6か月9か月1歳1歳半父****ns母他の子どもの父親他の子どもの母親 近年、口腔内細菌がアルコールやグルコースを代謝して産生されたアセトアルデヒドが口腔がん発生のリスク因子となっている可能性が示唆されている。しかし、それらアセトアルデヒド産生に関わる詳細な代謝機構や、その産生に対する口腔環境因子による影響は明らかになっていなかった。 そんな中、東北大学大学院歯学研究科口腔生化学分野の高橋信博教授らの研究グループが、口腔内細菌によるアセトアルデヒド産生に関連する代謝機構、さらに口腔環境因子がその産生に及ぼす影響を明らかにしたと発表。研究グループは口腔内環境を想定した各種条件下(酸素濃度、pH、基質)で、アセトアルデヒド産生量がどのように変化するのかを、3種の口腔レンサ球菌と2種の口腔ナイセリアを用いて検討したという。 その結果、エタノールを基質としたアセトアルデヒド産生は、実験に用いた全菌種において確認され、その産生量は一部を除きpH8・0で多く、pHの低下とともに減少する傾向がみられた。また、嫌気条件と比べ好気条件でその産生量が大きく増加。さらに、全菌種においてアルコール脱水素酵素とNADHオキシターゼの活性が確認された。一方、グルコースを基質としたアセトアルデヒド産生は口腔レンサ球菌属からのみ確認され、その産生量はエタノール基質時の産生量と比べ10分の1ほどと少なかった。 この結果から、研究グループはたとえ健康的な口腔環境であっても、口腔常在菌が飲酒由来アルコールからアセトアルデヒドを産生し、口腔がんのリスクを高める可能性を示唆。さらに、口腔清掃不良とアルコール多飲はこれを増強するとしている。口腔内細菌は、好気・中性pH環境でアルコールから発がん性物質を産生。■口腔内細菌によるアセトアルデヒド産生代謝機構(推測図)・健康的な口腔内細菌叢・口腔環境であっても、口腔常在菌が飲酒由来アルコー ルからアセトアルデヒドを産生し、口腔がんリスクを高める可能性を示唆・口腔清掃不良とアルコール多飲はこれを増強する可能性ありエタノール至適pHにより産生効率が変化アルコール脱水素酵素NADH オキシダーゼNAD+NADH+H+アセトアルデヒドH2O0.5 O2好気環境にて産生効率が上昇

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