Dentalism37号
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注目の歯科医師インタビューされますし、消化管も動きます。逆に言うと、噛まないと消化管が動きませんので胃がもたれます。あまり噛まずに炭水化物を飲み込むと胃がもたれることがありますが、それは胃では炭水化物は分解できないからです。胃ではタンパク質は分解されますが、炭水化物は分解されません。咀嚼することによって口の中の唾液アミラーゼで炭水化物を分解してから飲み込まないと消化できないのです。 噛むことばかりに話がいっていますが、地域包括ケアシステムで一番重要なのが摂食嚥下なんです。咀嚼ということに対しては歯があれば噛むことは出来ますが、噛んだ後は飲み込まなければいけません。しかし、咀嚼は出来ても飲み込めない人がたくさんいるんです。胃ろうで栄養を入れている場合もありますが、人間は自分で噛んで飲み込んで食べることが重要ですから。私たち歯科医師は、口腔の機能として噛んで飲み込むまでしっかり面倒をみなければいけないと思っています。周術期の口腔管理や栄養サポートチーム(NST)の一員としてなど、様々な面で需要が増えてきていますし、やりがいも増しています。――スタッフやユニット数も多いですね。佐野 スタッフ数に関しては、歯科医師だけで10名、ユニット数は9つあります。普通の総合病院であれば3名というところが多いでしょう。病院としては、他の診療科との力関係からそれ以上定員を増やせませんし、悪く言えばこじんまりとやっておけという場合が多いです。しかし、そこを変えていかないといけません。皆さん、これからの医療にとって口腔機能の重要性を言われていますが、ただそう言っているだけでは始まりません。病院経営もビジネスですから売上を伸ばさないと。とは言っても、人を増やせば売上が上がるわけではないので、売上を上げてから人を増やしていくしかないのです。実績を上げることで病院内での影響力も変わってきますから。その過程で多少の無理はあるかと思いますが、そこをクリアしないと始まりません。その結果もあってか、東京西徳洲会病院の口腔外科の売上は大学病院を含めても日本有数だと思いますよ。――それは口腔外科救急の開設がきっかけですか?佐野 その影響は大きいと思います。都内はもちろん、山梨、埼玉、神奈川など他県からも患者さんが運ばれてきますから。あとは、先ほどの、親知らずの抜歯を1日でしたり、インプラントも極力無駄な診療を省くことでより多くの患者さんを受け入れることが出来ています。新患を制限したり、診てもらうだけで何カ月待ちだとかを聞きますが、それじゃ意味がないでしょと。今日診てほしい患者さんには出来るだけ今日診てあげるというのが私たちの基本です。――地域の歯科医院からの紹介患者さんも非常に多いと聞きます。佐野 地域包括ケアシステムでは、その地域の開業医さんとの関係性が重要になってきます。私たちは紹介してくれる開業医の先生方をお呼びして、その患者さんがどのように治ったかを見せてあげるのです。紹介された患者さんが地域のクリニックに戻ったときに、「変なところを紹介しないで」と言われるのと、「良いところを紹介してくれてありがとうございます」と言われるのは全然違うじゃないですか。ですから、私たちは患者さんの満足度を上げて返してあげなければ9 Dentalism 37 WINTER 2019Prole 佐野次夫(さの・つぐお)1985年 岐阜歯科大学(現 朝日大学) 歯学部 卒業1985年 埼玉医科大学口腔外科学講座 入局1995年 埼玉医科大学口腔外科学講座 講師2002年 白根徳洲会病院 副院長2006年 東京西徳洲会病院 副院長、 口腔外科部長徳洲会病院グループ口腔外科統括責任者東京西徳洲会病院東京都昭島市松原町3-1-1http://www.tokyonishi-hp.or.jp/ いけないんです。――開業医さんとの信頼関係も大切だということですね。佐野 そうです。単にお酒を一緒に飲んだりすれば患者さんを紹介してくれるわけではありません。開業医さんだけでなく救急隊も同じです。東京西徳洲会病院に連れて行けば治してくれるという信頼関係があるわけです。ただそれは、1日2日で認めてもらえるわけではなくて、1年2年3年と実績を積み重ねていくことでようやくそうなってくる。救急隊も色々な情報を持ってますから、あそこに行ってもダメだよと思われたら次はないんです。良い医療をしているかどうかは、我々が自分たちで評価をするのではなくて、第三者が評価するものですから。――これからの展望を教えてください。佐野 まずは、私が育てた人間が全国に散らばって、歯科口腔外科救急を展開できればと考えています。少なくとも、全国7大都市で。夜間に何かあったときにでも安心して住める環境を作っていきたいと考えています。さすが日本だなと誇れるようにしたいですね。 60歳を超えているとは思えない有り余るほどのエネルギー。「目の前の患者さんを何とかして治してあげたい」との初志を貫き、数々の高いハードルを乗り越えてきた自信と、目指すべき歯科医療実現への強い想いが感じられる。

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