Dentalism37号
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Dentalism 37 WINTER 2019 8何より、人間の身体は一つですので、目の前の患者さんの体の中で何が起きているのかということに関心を持つことが臨床医にとって必要なことでしょう。――通常の口腔外科ではどのような患者さんが多いのですか?佐野 やはり一番多いのは親知らずの抜歯ですね。ただ、うちの場合はちょっと違います。一般的に、親知らずの抜歯で大学病院などに行きますと、初診時に予約を取って、次の機会に抜歯するという流れだと思うのですが、この病院では初診のその日に抜歯します。患者さんからしても親知らずを抜くぐらいで2日も会社を休むなんてもったいないじゃないですか。いつ抜くのかと話をしているうちに抜歯できるのであれば抜歯してしまった方がいいと。抜歯後の消毒も翌日にしてあげたりしています。――それは患者さんにとっても嬉しいことですね。佐野 ただ、その場で抜歯するには相応の技術が必要になります。抜歯に何十分もかかっていては意味がありませんから。何も考えていないとそのような技術は身に付きませんし、逆にこのような考えがあるから、部下たちも技術を身につけられるのです。口腔外科というと親知らずの抜歯というイメージがありますが、それが主な診療ではいけません。言い方は悪いかもしれませんが、親知らずを抜くことぐらいはサービスみたいなものでパパっとやって、もっと他のことに注力していかなければいけないと思います。――具体的に他のこととは何でしょうか?佐野 口腔外科の基本としてやらなければいけないことは、問題があったら歯を抜く、そして抜いた後に修復してあげること。修復の仕方は、状況によってブリッジや入れ歯、インプラントなどありますが、歯がなくなったところをいかに元の形に戻してあげられるか。そして、それをいかに早くしてあげられるか。出来るだけ早く咀嚼できる環境を作ってあげなければいけないと思います。結局、歯がない状態ですと、骨が薄くなってきて噛むことができない。それによって筋肉も弱まり、奥歯でしっかり噛むことが出来なくなってしまうのです。噛めないということは、食べられないだけでなく様々なデメリットがあります。よく、運転中に眠たくなったらガムを噛んで眠気を覚ますということがあると思いますが、要するにこれは奥歯で噛むことによって脳の前頭前野を活性化させられるということなんです。 ちなみに、奥歯で物を噛むことはアルツハイマー型認知症の予防にも繋がりますよ。昔は、歯がないと頭に刺激が伝わらないのではないかと言われていましたが、筋肉の周りの筋紡錘に刺激が伝われば良いということがわかりましたので、とにかく入れ歯でもインプラントでも奥歯で咀嚼できる環境を作らなければなりません。認知症になったらインプラントは邪魔になるという方もいますが、認知症にならないためにインプラントにしてほしいですね。――東京西徳洲会病院はインプラントの評判も高く、佐野先生ご自身も中国で講演会もされるほどだとか。佐野 口腔外科専門ですから自信はありますし、症例も多いです。最近では、92歳のおじいちゃんが「俺は最後まで美味しいものを食べて死ぬんだ」とインプラントを入れられました。その方は、40歳から徐々にインプラントにし始めていて、口の中がインプラントの歴史みたいになっています。しっかりメンテナンスをすれば何十年も維持できます。今はどちらかと言うと、インプラントを入れたらそれで終わりというようなクリニックも多いですが、本当はメンテナンスが極めて重要なんです。――インプラントについては、色々な事故もありますが。佐野 外科の知識がないにもかかわらず儲かるからと言って自己流でやるからそうなるんです。基礎も出来ていなくて応用は無理ですから、まずは標準的な治療を身につけることが大切だと思います。――食べることだけでなく、脳への刺激など咀嚼の影響は様々あるのですね。佐野 そうなんです。さらに、咀嚼することによって唾液も分泌

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