27Dentalism 36 AUTUMN 2019 口臭を気にする人は少なくないと思われるが、正しい予防法が周知されているとは言い難い。鶴見大学歯学部口腔機能診療科准教授の中川洋一氏は、口腔内口臭の予防法について解説。口臭に悩む患者では、歯のブラッシングだけでは改善しない例が多く、ブラッシング後にかえって口臭が悪化する例も見られるという。真性と非真性に分かれる口臭症 口臭症の治療のために歯科を受診する患者は多い。しかし、中川氏によると口臭症は呼気中に悪臭を認める真性口臭症と、他人に認知できるほどの悪臭を検出できない非真性口臭症に大別され、歯科以外の領域での治療が必要なものもあるという(図)。 このうち、真性口臭症に含まれる口腔内口臭症が歯科領域で、口腔外口臭症は内科や耳鼻咽喉科など、非真性口臭症であれば主に精神科が治療することになる。第62回春季日本歯周病学会 5月24〜25日口臭の正しい予防法歯のブラッシングだけでは不十分(Medical Tribune 2019年7月4日号9ページより転載) 歯科領域となる口腔内口臭症は、舌や歯周組織を発生源とする硫化水素、メチルメルカプタン、ジメチルスルフィドで構成される揮発性硫黄化合物(VSC)によるところが大きい。その診断は、医療従事者が直接臭いを嗅ぐか、クロマトグラフィによりVSC値を測定して、測定→処置を繰り返し、消去法で行う。すなわち、①まずは口腔ケアを行わない状態でVSC値を測定②VSC値にかかわらず歯ブラシによるブラッシングを行い、再度VSC値を測定。低下すれば口臭の原因は歯垢であると診断可能③②で低下しなければ舌の清掃を行い、再々測定。低下すれば原因は舌の汚れであると診断可能、低下しなければ口腔外口臭症が疑われ、他科に紹介する─の流れとなる。 口腔内口臭症であれば、通常②の段階で口臭の改善が期待されるが、実際はブラッシングにより口臭が悪化する症例も少なくない。磨き方によっては舌表面で水溶化(臭いが出ない状態)していた硫黄化合物が巻き上げられ、硫黄化合物の揮発化(臭いが出る状態)を招いてしまうのだという。 同氏の施設を受診した約300例のうち、精神科領域である非真性口臭症と診断されたのは3%程度で、その他90%超は口腔内が原因であった。その大半が歯垢や舌の汚れを原因としており、歯周病による口臭除去に治療を要するような患者は1%に満たなかった。しかし、歯垢や舌の汚れであっても磨き残しが多いため、ブラッシングのみで改善される例は少なかった。ガーゼによる舌清掃、洗口液による洗口などを使い分ける では、どうすれば口臭を防げるのか。歯のブラッシングで改善が見られない場合に重要な役割を果たすのが舌清掃であるが、舌のブラッシングは技術習得が難しく、舌清掃を意識的に実施している患者でも磨き残しによる口臭が認められることは多い。 そこで、中川氏はガーゼによる清掃と、その技術習得に向けた専門外来の受診を勧めている。清掃のポイントとしては、舌全体を満遍なくガーゼで汚れをかき出すようにし、白いガーゼが黄色に変色しなくなるまで清掃するのが目安となる。 一方、一時的な効果にとどまるが、即効性が期待できる化学的な方法もある。その1つが洗口液による口腔洗浄で、同氏は自施設を受診した7例を対象に塩化亜鉛を含有したハイザックNリンスを用いた洗口の有用性を検討。VSCのうち、硫化水素濃度が有意に低下し、メチルメルカプタン濃度については有意差はないものの、洗口後に全て0になっていた(歯薬療法 2017; 36: 108-112)。 これらの経験に基づき、同氏は「口臭は、歯のブラッシングだけでは改善しないことが非常に多く、舌清掃が重要となる。ただし、舌清掃を日常的に行っていても舌ブラシによる清掃では効果が認められないことが多く、その場合はガーゼによる舌清掃が有用である。また、長時間の効果は期待できないが、一時的には洗口液による洗口も有用であるため、状況に応じて使い分けるのが好ましい」とまとめた。図ー原因別に見た口臭症の分類口臭症真性口臭症血液由来の口臭非血液由来の口臭非真性口臭症口腔内口臭症口腔外口臭症精神疾患神経障害(日口臭誌 2018; 9: 19-27より一部変更)口臭症は呼気中に悪臭を認める真性口臭症と、他人に認知できるほどの悪臭を検出できない非真性口臭症がある。真性口臭症は、悪臭の発生部位から口腔内口臭症と口腔外口臭症に細分類される。口腔外口臭症には、血液由来の口臭と非血液由来の口臭がある。非真性口臭症は精神疾患と神経障害がある
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