Dentalism36号
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19Dentalism 36 AUTUMN 2019加齢に伴い誤嚥性肺炎の発症リスクが増大することが報告されている。一方、加齢による歯の欠損や口腔機能の低下が誤嚥性肺炎の発症リスクになり得ることが十分に考えられる。そんな中、公立能登総合病院歯科口腔外科らの研究チームが、65歳以上の高齢入院患者を対象に誤嚥性肺炎発症リスクと関連する口腔要因について検討を行い、さらに、認知症の有無ならびにその種別・年齢に分けた場合における誤嚥性肺炎発症リスクと関連する口腔要因の変化についても解析した。その結果、1353名の対象者全体でみた場合、流涎、粘稠痰、剥離上皮、舌苔、食物残渣、口内炎の存在が誤嚥性肺炎リスクと関連することが判明。一方、歯の存在ならびに義歯使用が発症リスクの抑制と関連した。また、認知症の有無ならびにその種別に分けた場合、DLB(レビー小体型認知症)患者が他の認知症発症者ならびに認知症でない患者より有意に誤嚥性肺炎発症率が高くなっていた。また、誤嚥性肺炎発症リスクと関連する口腔因子が認知症患者の種別により異なり、さらに、認知症でない患者とAD(アルツハイマー型認知症)患者においては、その因子が80歳未満と80歳以上の間で異なっていた。誤嚥性肺炎発症リスクと口腔要因の関連、さらに、認知症の種別との関係が分かったことは、この高齢化社会において意義深いことであり、これからの研究にも注目したい。口腔要因、認知症の種別により、誤嚥性肺炎発症リスクに差。公立能登総合病院歯科口腔外科長谷剛志 氏■誤嚥性肺炎の発症と認知症種別200150100500-50DLB15211410225※※ p<0.0017ADなしVaDFTD歯の喪失が認知症の危険因子になるということはこれまでも提唱されており、口でものを噛むことが脳機能に深く関与していると考えられている。ただ、そのメカニズムにはいまだ不明な点が多く残されているのが現状である。しかしこの度、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・顎顔面矯正学分野、国立精神・神経医療研究センター・神経研究所、同・脳病態統合イメージングセンター、群馬大学大学院医学系研究科・整形外科学の共同研究により、口でものを噛む動作が異なる二つの運動制御機構に働くことが解明された。研究グループは、咀嚼時に脳内で働く運動制御機構に着目し、食物を力強くすりつぶす奥歯(臼歯)と、繊細な力でものを咥えたり噛み切ったりする前歯を介した二つの咀嚼様式について解析を行った。その結果、奥歯で噛む時は、噛む力が大きいほど脳内の力強く噛む機能がより強く働くことが示され、逆に前歯で噛む時は噛む力が小さいほど脳内の繊細に力をコントロールする機能がより強く働くことが明らかとなった。これにより、ものを噛む運動を行う際、脳内において単に噛むという単一の指令系統だけでなく、異なる二つの運動制御機構が関与することが初めて立証されたことになる。この研究結果は、単に咀嚼時に働く運動司令塔の仕組みを解明するだけにとどまらず、咀嚼時に歯や口の粘膜などから入力される感覚情報が脳の機能に及ぼす影響を明らかにする一助となり、さらには咀嚼が脳を介し全身の健康にどのような役割を果たすかを解明する新たな手掛かりとなるかもしれない。咀嚼機能を司る、脳内の異なる二つの運動制御機構の解明に道筋。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・顎顔面矯正学分野森山啓司 教授

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