Dentalism36号
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15Dentalism 36 AUTUMN 2019――他にも、咀嚼と全身機能についての関係で分かっていることはありますか?小野オリンピックが近いのでスポーツとの関係で言いますと、よく、「歯を食いしばると力が出やすい」と言われます。元プロ野球選手の大打者・王貞治さんの奥歯はすり減っているとも聞きます。これは先行研究も行われておりますが、どういうメカニズムで起きているのかが判然としなかったんです。そこで私たちは、脊髄レベルではなく脳が関係しているのではないかと考え、人を対象に研究を始めました。ファンクショナルMRI(機能的磁気共鳴画像法)という技術で脳の活動を見てみると、歯を食いしばると脳が反応して握力が上がりました。普段はサイレントな回路が食いしばったときにスイッチが入ってアクティブになる。すなわち、末梢の単純な経路ではなく、食いしばる行為が脳に影響を与え、身体能力に影響を与えている。日常生活での食事での噛むということだったり、スポーツのときに奥歯でグッと噛むということまで含めて、口と脳の関係は思った以上に密接に関係しているのだとわかりました。――歯科において矯正の役割や重要性をどう考えておられますか?小野不正咬合はいつの時代でもあると思いますので、患者さんがそれをどれぐらい重要視するのかが大切になっています。矯正歯科治療の多くは自費治療ですので、簡単には「はい、わかりました」ということにはなりません。このままにしておくとどれぐらい不具合があるのかを患者さんにしっかりと説明するということが重要なんです。最終的に治療するのかしないのかは患者さんの判断ですが、子供のうちに治せることは治してしまった方がいいということは言えます。口呼吸のような機能障害を治せば、今後発生するかもしれない様々な病気を防ぐことができるかもしれません。将来的に考えても、早めに不正咬合を伴う口腔機能障害を治した方が医療費が少なくなるかもしれません。――結果的に、医療費が少なく済み、なおかつ生活の質が良くなるのであれば、そちらの方が良いですよね。小野ですから、それをどれだけ患者さんに説明できるかが重要です。あとは、ごく初期の矯正歯科治療は保険でカバーできるようにすれば、社会全体としても医療費の削減に繋がるかもしれません。――歯科業界全体の今現在、今後について発信したいことはございますか?小野まずは、患者さんがどこの歯科医院へ行ってもこれぐらいのレベルの治療を受けられるといったスタンダードを上げていく必要があると思います。自費診療ならまだしも、同じ保険診療でレベルが大きく違っては困りますから。――歯科業界全体の底上げが必要だということですね。小野あとは、基礎研究はもちろん大切で意味があるのですが、基礎研究だけではなく臨床研究が重要で、すぐに患者さんに反映できる、ヒトを対象とした研究をやっていく必要があるだろうと思います。そして、両方の研究で得られたデータを患者さんにお話しして共有していかなければいけません。昔と違って、今の患者さんは先生に「お任せします」という人はあまりいないでしょう。歯科でも医科でもエビデンスが重要ということが社会的にも知られるようになってきていますので。患者さんも色々先生に聞きたいことがあるでしょうし、そういったときにしっかりと答えられる引き出しをたくさん持っておかなければいけません。それも正しい引き出しを。予防医療という意味合いでも、患者さん自ら気を付けなければいけないことがあると思います。こちらから情報を提供することで、患者さん自身も治療に関与しているんだという気持ちになれる状態を作ってあげる必要があるのではないでしょうか。

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