Dentalism36号
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Dentalism 36 AUTUMN 201914始めているプロジェクトがあります。私も少しだけ関わっているのですが。研究し始めた段階ですのでまだはっきりとしたことは言えませんが、口腔ケアは認知症の進行を遅らせると解釈できるデータが出始めているようです。それも、投薬などの介入の仕方ではなく、単に歯をよく磨くということであれば非可逆的な介入でもありませんし、それだけで認知症の進行をスローダウンできるとか抑制できるということになれば国民へ与える影響は大きいと思います。に噛むことと認知症の関係が指摘されています。例えば、日本歯科医師会の資料によりますと、認知症の認定を受けていない65歳以上の健常者約4400人を対象にしたコホート調査では、残っている歯が多いと認知症になりにくく、ほとんど歯が残っておらず義歯も使用していない人は認知症リスクが高まるということがわかりました。さらに、歯がほとんどなくても義歯を使用している、使用し始めた人は義歯を使用していない人に比べて明らかに低い経緯をたどるんですね。それは、歯が結構ある人とほぼ遜色ないぐらいでした。――義歯といっても、入れ歯やインプラントなど様々な種類がありますが、それによって違いはあるのでしょうか。神経が残っているかどうかですとか。小野それに関しましては大変興味はあるのですが、比較した調査はまだないのです。神経の有無に関しては、歯根膜を残して歯を移動する自家移植という方法がありますが、インプラントなどとどういう違いが出るかは、これも研究をしてみないとわからないというのが現状です。将来的には調べてみたいですね。――8020運動の推進で残存歯数が多くなっておりますが、一方で、歯を残しているがために衛生環境が悪いと様々な悪影響を及ぼしているということもよく聞きます。小野やはり、ただ歯があれば良いわけではなく、健全な状態であることが大切です。清潔に保たなければ意味がないどころかマイナス面に働く場合があるでしょう。――高齢化社会において、要介護状態になってしまうと自分でケアもできませんから周りのサポートやシステム作りも大切ですね。口腔ケアをすることで認知症リスクを下げられるのでしょうか?小野認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)という状態があるのですが、その段階で歯科的に介入して口腔衛生状態を良い方向に保っていくと認知症への移行が緩やかになる、あるいは防げるといったことがあるのではないかと、うちの大学でも口腔ケア専門の衛生士や補綴の先生が中心になって単位回答数 n=999高水準■子供の朝ごはん時の咀嚼実態と学習意欲■歯の数と認知症リスクとの関係65432100200400600800日数1000120014000%20%40%60%80%100%日朝ごはんの咀嚼実態認知症になっている人の割合(%)よくかんでいると思うよくかんでいるとやや思うどちらとも言えないよくかんでいるとあまり思わないよくかんでいると思わない63.620.519.550.023.626.432.033.334.629.929.340.831.724.443.9中水準歯がほとんどなく義歯未使用19歯以下低水準出典/「朝にゆっくりかんで食べる食事と学力・スポーツに関する実態調査」(全国農業協同組合中央会)出典/「歯数・義歯使用と認知症発症との関係」(Yamamoto et al.,Psychosomatic Medicine,2012)歯がほとんどなく義歯使用20歯以上てみないと何とも言えないですが、過去の調査で興味深いデータもあります。全国農業協同組合中央会(JA全中)が朝食時の子どもの咀嚼の実態と学習意欲の関係を調べたアンケート調査ですが、朝食時によく噛んでいると思われる子どもは学習意欲が高く、よく噛んでいると思われなかった子どもは学習意欲が低いという結果となりました。――小野先生の研究は幼若ラットが対象で、JA全中の調査対象も子どもでしたが、大人の場合も関係があるのでしょうか。小野大人の社会では、もうすで

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