Dentalism36号
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13Dentalism 36 AUTUMN 2019たのですか?小野「咀嚼と何か」というよりは、「呼吸と何か」をテーマにしていました。というのも、大学の教授から、舌の運動の中枢性制御機構をテーマに研究をしなさいと言われていましたので。中枢性制御機構と言いうと難しいですが、簡単に言うと、舌の運動を脳がどんな風にコントロールしているのかということなんです。脳は当然、咀嚼にも関係していますが呼吸にも関係しています。下の前歯の内側にセンサーを付けて圧力を測りますと、一定のリズムで歯の内側に舌が当たりますが、不思議なことに、そのリズムは呼吸のリズムと一致しているんです。息を吸うときは舌がこうなっていて吐くときはこうなっているというように。それで、舌は咀嚼器官でもありますが呼吸器官でもあるというイメージが強くなりまして、それからずっと呼吸関係のことに興味を持っています。――歯並びや咀嚼も呼吸に関係するのですか?小野皆さん、あまりご存じないのですが大きく関係しているのです。先日、約5万人の高校生が様々な大学の先生の講義を聴く『夢ナビライブ』というイベントが東京ビッグサイトで開催されまして、私も「歯並び、噛み合わせと呼吸の関係」というタイトルで講義をさせていただきました。普通は疲れたから帰ろうとなってしまう7時限目に行ったのですが、結構聴きに来られる子が多くて、事後アンケートを見てみると、「知りませんでした」とか「驚きました」という内容が多かったですね。口呼吸をしているとどんな影響があるかと言いますと、まず唇からの力が加わらないので出っ歯になりやすくなり、出っ歯になればぶつけるなどの外傷も増えます。それから、常に口を開けた状態になりますので、口腔内が乾燥し口臭の原因にもなります。あと、アトピー性皮膚炎との関係も指摘されていますし、本当に様々な影響があるんです。――小野先生と言えば、2018年に、歯科医学の国際雑誌「Journal of Dental Research」で1年で最も優れた論文に与えられる「IADR/AADR WilliamJ.Gies Award」を受賞されました。咀嚼刺激の低下が記憶学習機能の障害となるという研究結果も大変興味深かったです。小野の研究は、離乳期から成長期にかけてマウスに粉末飼料を与えることにより、咀嚼刺激を低下させて解析しました。その結果、粉末飼料を与えたマウスは通常の固形飼料を与えたマウスと比べ、顎顔面の骨や噛むための筋肉の成長が抑制されたのです。また、脳の中に記憶に関係する海馬の状態を比べてみますと、神経細胞であるニューロンの分化が抑制されていました。ニューロン自体も減っていますし増殖もうまくいっていない。シナプス伝達という情報伝達も抑制されているわけですね。すなわち、海馬がかなりの障害を受けていることがわかりました。ということは、記憶学習機能も落ちているというわけです。――要するに、硬いものを噛んで食べるか軟らかいものを噛んで食べるかで記憶学習能力が変わるということですね。今回は動物実験ですが、これを人間に置き換えた場合は同じことが言えるでしょうか。小野実際に人間を対象に調べ昨年の『夢ナビライブ』での講義の様子。

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