Dentalism35号
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15Dentalism 35 SUMMER 2019だかなくてはいけません。それにはまず歯科医師自体がそのことを理解しておかなければいけません。そして、噛めないのであれば料理で工夫するとか、食べ方で工夫するとか、咀嚼障害とどう付き合っていくかを考えていかなければならないでしょう。硬いものを噛めるようにすることだけを目的にするのではなく、咀嚼障害を治すことが難しいのであれば、しっかり栄養を摂ることを目的にしなければいけません。そうなると、柔らかくて栄養があって美味しい食事を勧めるなどの提案が必要になってくるはずです。――患者さんへの治療方針そのものが変わってくるということですね?菊谷口腔機能低下症だということは、改善できる可能性もありますが、要介護に近づいたとも言えます。次のステージ、すなわち訪問診療を見据えた治療提案をしなければいけないでしょう。逆に、訪問診療の先生は外来診療の情報を活用してほしいですし、外来と訪問が一体化しないと機能していきません。――その他、要介護者への歯科治療についての課題はありますか?菊谷介護現場でのう蝕や歯周病が問題となっています。8020運動の推進により、高齢になっても多くの歯が残っている方が多くなりました。そういう方が寝たきりになってしまうと、必然的にプラークコントロールも出来なくなり、一気にう蝕に罹患する場合がほとんどです。さらに、口腔ケアが出来ずにいると誤嚥性肺炎のリスクも高まります。歯を残した人が逆に肺炎リスク者になってしまうというのは本当に悲しい話です。――歯科界が推進していることと矛盾しますが?菊谷そうなんです。歯が残っている人の口腔内の方がよっぽど汚れているのです。しかし、解決策は簡単で、歯を残していても口腔ケアをしっかりとしていればそんなことにはなりません。ただ、今の現状では、歯科医は訪問診療に行かないし、医療制度上も不備があるしで、対策が後手に回っている。これは歯科界をあげて頑張らないといけない課題です。――歯を残すことと在宅での口腔ケアをセットで考えないといけないということですね。菊谷そうです。今までは歯を残すことだけを考えてきましたが、歯を残した先を考えたときに、残しても大丈夫なように在宅や要介護の現場で口腔ケアが出来るようにしなければいけません。何度も言いますが、これは外来と訪問診療を継続的に診ていくと気付くことです。――歯の数だけでは口腔内の健康ははかれないわけですね。菊谷そういう意味でも、口腔機能低下症の診断はう蝕や歯周病の診療同様に重要なことで、保険診療上も65歳以上全員が検査できるようになっていますから、本来なら片っ端から検査をしても良いくらいです。特に舌圧は歯の数によらない絶対値で、例えば、入院後の在宅復帰率にも影響しますし、肺炎のリスクにも影響します。少なくとも、咀嚼障害患者が歯科医院に来られたら当たり前のように舌圧を測るようにならなければならないでしょう。例えば、血圧やコレステロール値は、健康に対する国民の共通用語じゃないですか。皆さん、基準の数値まで知っています。歯科界としては、舌圧を上手に育てていけば、国民が健康診断で血圧やコレステロール値を気にするように、舌圧を気にすることが当たり前になるかもしれません。いや、そうしていかなければいけないでしょう。我々、歯科界は口腔機能低下症によってそういう武器を持ったということなんです。これはまさに歯科界の転換期になります。それぐらい重要なことだと思います。

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