Dentalism 35 SUMMER 201914ら、治らない咀嚼障害にしっかりと寄り添っていくことが大事なんです。例えば、整形外科ではリハビリテーション科で歩行障害のリハビリをしていますが、治らない人には杖の突き方を指導しますし車イスを勧めたりするでしょう。ところが、歯科はそういうことをしてこなかったんです。なぜかと言うと、患者さんに「あなたはもう昔のように噛めないんですよ」とは怖くて言えなかったから。そうではなくて、治せない咀嚼障害が存在するということを数値を持って示して患者さんに理解していた宅になってしまった後に繋がらない。口腔内は荒れ果てていて、誤嚥性肺炎のリスクを抱えながらご自宅で暮らしているという患者さんを、私たちは想像をしなければならないんです。まさにフレイルの考え方がそうですが、ある朝突然目覚めたら要介護になっていたという人はほとんどおらず、一連のフレイルの過程を経て徐々に身体機能や認知機能が低下していくのです。そして、そういう変化は外来診療のときから始まっていますから。――そのサインを歯科医師が見つけてあげなければいけないということですね?菊谷そうです。それには、目の前にいる患者さんだけではなく、自宅での患者さん、未来の患者さんを想像することが大切なんです。今回、保険適用になった口腔機能低下症は逆説的に考えると、その患者さんがもう外来に来られなくなるサインなのです。口腔機能低下症やフレイルは、衰えを食い止めて何とか回復方向に持って来させようと言うのですが、全員が全員そうはいかないのが現実です。大体の人が次のステージに移行してしまいます。ということは、口腔機能低下症やフレイルと診断された人は要介護に近づいたとも言えるでしょう。口腔機能低下症が素晴らしいのは、口腔機能障害つまり噛めないという患者が来た場合、これまでの歯科ではほとんどの場合、咬合が悪いか義歯の適合が悪いと考えていました。それは、歯があれば噛めるはずという固定観念によるものであって、噛めない原因は他にあるのではないかという客観的検査をすることなく診断していたのです。これは非常におかしな話で、お腹が痛いという人を全て虫垂炎だと思って手術するのと変わらない話だと思います。――それは歯科医師自身が噛めない原因が他にあると分かっていないということでしょうか?菊谷そういう場合もあるでしょうし、なんとなく気付いていたけれども、患者や家族の希望に応じて義歯を作り、治らない場合は患者が諦めるのを待っているというケースもあるでしょう。それには、歯科が元気な人しか診てこなかったからというバックボーンがあると思います。通院出来る、すなわちADLも認知機能も高い、自分で予約を取り自分で会計をして帰って行く元気な人限定の歯科医院だったのです。しかし、高齢化が進むに伴い、加齢による咀嚼障害を持つ人が多くなった。咀嚼障害が治らないのは、加齢とともに舌や唇の機能が低下しているからで、咬合のせいでも義歯のせいでもない。今回の口腔機能低下症は、そういった患者さんに、舌圧やディアドコを測ったり、唾液の分泌量を測ることで、数値をもって客観的に咀嚼障害の原因が加齢だったんだよと言えるようになったんです。ただ、加齢による咀嚼障害が治るかと言えば、回復の程度は限定的でほぼ治らないと言っても過言ではないでしょう。だか
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