Dentalism35号
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9Dentalism 35 SUMMER 2019臭そうにしていると。これは、誰でも起こりうるストレスからの口臭じゃないかと考えましたが、そういうことが気になって仕方がない人がいるのなら何とかしてあげたいと考えるようになりました。そこで、その患者さんに唾液を出してもらったところ、これがひどく汚れている上に臭かったんです。それで口臭の一番の原因は、歯でもなく舌でもなく唾液なのではないかと気が付きました。唾液の臭いが発生する原理は川と一緒なんです。川底まで見える透明な川は臭わないですが、ヘドロや汚物がある川は臭いでしょう。でも、淀川にしても利根川にしても底は見えないですが、何で臭わないか分かりますか? それは流れているからなんです。物理的に考えれば簡単なんですが、臭いは液体から発生します。揮発性硫黄ガスと言うぐらいで、揮発するのは液体ですから。結局は皆の勘違いで、口臭の原因が歯だと思う人は一生懸命歯を磨いているし、舌だと思う人は舌を一生懸命磨いている。しかし、それでは解決できなくて延々と悩んでいるわけです。――おっしゃる通り、口臭を気にして歯を磨いたり、舌を磨く人は多いですね。でも、唾液を気にする人はほとんどいません。本田 そうでしょう。歯から口臭が起こるわけもないし、舌を磨いたって臭いを一時的に抑えるに過ぎません。それに、医科で勉強した私からしますと、舌を磨くのは良くありません。粘膜が傷ついてしまいますから。磨くのではなく舌かきならいいですが。私がよく患者さんに言うのは、「歯と舌と唾液の中でどれが大切ですか?」と。そうすると、皆さんは歯と答えるんです。でも、「綺麗な歯があっても舌がなかったらどうなりますか?」。「食べることも話すことも困難になりますがやっぱり歯の方が大切ですか?」と。そこでやっと舌の方が大切だと気が付かれるんです。それから、「もっと大切なものがあるでしょう。唾液がなくなったらどうなるかわかりますか?」と。「飲食は絶対に出来ないし、会話も円滑に出来ません。何より、数時間以内に咽頭炎を起こして高熱が出て、4、5時間ぐらいで肺炎になって死んでしまうでしょう。唾液がないと除菌できませんから。また、唾液が十分に出ていたら歯周病にもなりにくくなりますよ」と。それは凄いということで患者さんもやっと唾液の大切さに気付かれるんです。もちろん、舌の動きと唾液の分泌は連動していますので、舌も大切なことに変わりはありません。ただ、歯や舌というパーツではなく、唾液を出すという口腔機能が大切なのです。――パーツではなく、口腔全体の機能を大切にしなければいけないということですね。本田 そうなんです。当時、まだインターネットがそれほど普及していなかったんですが、今言ったようなことをホームページに書いたところ、全国から問い合わせが殺到しました。しかし様々な意見をいただいた中で、反対意見も多くありました。やはりその当時の歯科業界では、歯と口臭を関連付けるという考え方が多かったですね。私は研究者でもありますから、そこはしっかりとエビデンスをとり、自信を持って今日まで進めてきました。――実際の診療ではどのようなことをされているのですか?本田 まず前提として、口臭外来に来られる患者さんの8割の方が病的口臭がない人ということがあります。病的口臭とは、糖尿病や歯周病など何らかの疾患が原因となり常に口臭がある人で、そういう場合は専門のクリニックを紹介します。しかし、その他の人は生理的口臭症と言って、従来から客観的な認知が難しいと言われてきました。日本では昔からそういった方々を考え過ぎとか妄想だと言って精神病的な扱いで切り捨ててしまう傾向にあったんです。いわゆる不定愁訴ということで。しかし、不定愁訴というのは器質的な原因が他人から見ると分からないということであって、患者さんは実際その訴えの内容を実感し、悩まれて来院されるわけです。その訴えを全て肯定して、悩みの根源は何かを突き止める。例えば、口がネバネバすると訴える人はそのネバネバがある限り口臭があるに違いないと悩むわけです。周りの人を見たら鼻に手を当てているのが気になったり。ひどくなると、ガラスの向こうにいる人でさえそう見えてくる。それぐらい不安を持つわけです。そして、このような感覚や、人のしぐさを患者さんは口臭と訴えるのです。――そこまで気になってくるのですね。本田 朝起きたときに臭う、お腹が減っても臭う、会社では緊張したりストレスで臭う、夕方疲れ口腔内のガスや舌の湿度を測定する機器などで検査。本田先生プロデュースの口臭予防商品も多数あり。

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