Dentalism34号
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注目の歯科医師インタビュー9Dentalism 34 SPRING 2019に直接要望を伺ってから作ります。やはり、実際に作る人が直接話をした方が良いと思いますので。鋳造して作る昔のやり方と、CAD/CAMなどコンピューターでデザインして削り出す今のやり方では全然違いますが、患者さんと話しながらどういうコンセプトで作るか、どういう設計にしていくかはなかなか機械だけでは出来ません。設備投資や人件費などコストはかかりますが、そこは大切にしたいと考えています。――それだけ補綴を重要視しているということですね。ひいては、咬み合わせや噛むことが大切だと。林 やはり咬み合わせが悪かったり、上手く噛むことが出来ないProle 林揚春(はやし・よしはる)1979年 日本大学松戸歯学部卒業1979年~1983年 IDA(国際デンタルアカデミー)勤務1983年~1985年 河津歯科医院勤務1986年 優ビル歯科医院開業日本顎咬合学会副理事長、日本大学客員教授、日本ピエゾ臨床研究会会長、ICOI指導医、FIDI主宰優ビル歯科医院東京都新宿区馬場下町6203-3204-8850https://www.u-dental.comと、身体に及ぼす影響は大きいです。脳の海馬の働きに影響するせいか、咀嚼を上手く出来ない人は認知症にかかりやすいという統計も出ています。あと、バランスを崩して転倒もしやすくなります。人間は奥でしっかり噛める歯がないとバランスを崩しやすいんです。高齢者、特に女性は転倒すると簡単に頸部骨折してしまいますので、そうなってしまうとおよそ半分の方は寝たきりになってしまいます。ですので、患者さんが来院されたときも、しっかり踵を使って歩行しているかなど歩行の仕方も観察しますね。つま先でよちよち歩いている場合は要注意です。また、咀嚼が上手く出来ない人はどうしてもタンパク質やミネラルが減りますから栄養面にも影響が出てきますね。そういったことをふまえて、うちでは初診時に体成分を調べるようにしています。――高齢化社会の中で、インプラントや補綴の重要性は高まるのでしょうか?林 日本は100歳以上の方が5、6万人もいる高齢化社会になりました。そんな中で、もちろん天然歯を維持することは非常に大切です。しかし、天然歯を残すことが果たして患者さんにとって最善の治療なのかと思うケースも多々あります。例えば、患者さんが寝たきりになってしまった場合、自分ではブラッシングが十分に出来ないことがほとんどです。介護の方などがしっかりとメンテナンスをしてくれれば良いでしょうけど、それもなかなか難しい。そうなると、天然歯の場合、う蝕や歯周病に罹患するリスクが高くなります。その痛みで苦しむのは患者さんです。その時点で治療ができれば良いですが、病気にかかっているかもしれませんし、経済的に治療を続けることが厳しいかもしれません。そういう意味ではインプラントの方が結果的に良い場合もあるでしょう。インプラントは分解もできますし、天然歯よりもケアがしやすいという面がありますから。ただ、口腔内ケアをする歯科衛生士がインプラントに対しての知識を深めなければいけないという側面はありますが。――若手の先生方にメッセージはございますか?林 講演会などでも言っているのですが、例えば2000円支払って映画を観に行ってその映画がつまらなかった場合、最後まで観るか、途中で映画館を抜け出すか。私はつまらなかったらパッと映画館を出ちゃいます。これは、2000円のために2時間を無駄にするかどうかということなんですが、実際はなかなかそれを出来る人がいない。人間は今までやってきたことを否定されるとすごく嫌がるんです。例えば、こんなに高いものを買ったのだから使わなきゃいけないとか、お金や時間を費やしたものを捨てられない。でも、自分にとってではなく患者さんにとって最善なのかを考えないと。――何が一番重要なのかを考えなければいけないということですね。非常に難しいお話ですが。林 そうですね。あと、若い先生にはもっと大志を抱いてほしいですね。教わることが多くて自分から何かをやってみようという人が昔から比べると少ない気がします。ちょっと大人しいというか。「歯科界を変えてやる」ぐらいの意気込みを持った人が増えていけば、面白いかなと思いますね。 既存の概念や方法にとらわれず、患者のことを考えた歯科治療に邁進する林先生。口の中だけを診るのではなく、QOL維持向上のため、全身の状態を見据えた治療の大切さを語っていただきました。「目の前の対処的な治療ではなく、先を読んだ治療」。これからの歯科医療にとって、大切なキーワードであることは間違いありません。8人の歯科技工士が勤務し、自院で義歯を製作している。

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