Dentalism31号
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29 Dentalism 31 SUMMER 2018 近年、わが国で患者数の増加が指摘される味覚障害。原因の1つとして唾液分泌量の低下(ドライマウス)が挙げられるが、その診断や治療は医科・歯科ともに普及しているとは言い難い。東北大学大学院歯学研究科口腔診断学分野教授の笹野高嗣氏は、「うま味」が持つ唾液分泌促進作用を活用した独自のドライマウス治療法を報告した。(第21回日本病態栄養学会発表より)患者は「口が渇く」とは言わない 味覚障害の患者は高齢者を中心に増加傾向にあり、2000年と2002年に耳鼻咽喉科を受診した味覚障害患者は約24万人にも上るとのデータがある。患者の多くは自覚症状に乏しいため、実際の数はさらに多い可能性が高い。味覚障害は体調や食欲、QOLに影響を及ぼすため、笹野氏は「味覚障害は単なる感覚障害ではなく、健康に関わる重要なサインである」と指摘する。 味覚障害の原因の1つにドライマウスがあるが、同氏によるとドライマウス患者が受診時に「口が渇く」と訴えることは少ないという。代わりに「口の中が灼けるようにひりひりして痛い」「べたべた、ねばねばする」などと表現することが多いと指摘。ドライマウスかどうかの見分け方は、患者に水を口に含んでもらうことで、痛みなどの症状が消えればドライマウスと考えられる。うま味の唾液分泌促進作用に持続性 笹野氏は、口内の歯肉以外の粘膜全体に分布する小唾液腺に着目している。小唾液腺の働きは大唾液腺に比べ広く知られていないが、粘膜の直接的な保護や保湿、再生の役割を果たすため、ドライマウスの改善には小唾液腺からの唾液分泌量が鍵となる。小唾液腺からの唾液分泌には味を感じる味蕾細胞を保護する働きもあるため、同氏は小唾液腺における唾液分泌と味覚の関係について検討した。その結果、五大基本味のうち酸味とうま味が唾液分泌量を大幅に増加させ、酸味による効果は一時的であるが、うま味の効果は持続性があることが分かった(図)。 そこで、同氏はうま味を活用した独自のドライマウス治療法として、水500㎖に昆布40gを1晩浸して取っただしを開発。お湯ではなく水を使うことでだしにとろみが付き、保湿効果が生まれる。使い方は1日約10回、口の乾燥を感じたときなどに30秒間口をすすぎ、そのまま飲んでもよい。なるべく長く口に含み昆布だしのうま味を味わうことによって、唾液の分泌を促すよう訓練する。およそ2週間ほどで唾液分泌の改善が実感できるという。 同氏は「だしを患者自身がつくることがポイントで、これも治療の一環となる」と述べ、現代医療においては薬に頼り過ぎる昆布だしの「うま味」でドライマウス改善のではなく、栄養学の手法を取り入れることも重要とした。(Medical Tribune 2018年2月15日号12ページより転載)30025020015010050(%)うま味   酸味   甘味   塩味   苦味   水(対照)2610経過時間141822(分)唾液分泌量0*P<0.05(vs. 水)*********(Curr Pharm Des 2014; 20: 2750-2754) 〈図〉 小唾液腺からの唾液分泌に対する五大基本味の刺激効果Medical Tribune紙:1968年にわが国で唯一の週刊医学新聞として創刊されました。各種医学会取材による最新医学情報をはじめ、専門家へのインタビュー記事、解説記事など、研究や日常診療に役立つ情報を提供しているジャーナル 唾液分泌量が低下し、口腔内が乾燥した状態。加齢や薬の副作用、ストレスなどが原因で、口内のひりひりと灼けるような痛みやねばつき、口臭、味覚障害などを引き起こす。唾液を分泌する唾液腺には舌下腺、顎下腺、耳下腺を含む大唾液腺と口内の歯肉以外の粘膜全体に存在する小唾液腺があるが、ドライマウスには小唾液腺が深く関係している。小唾液腺は粘膜の直接的な保護や保湿、再生などの重要な役割を担っており、唾液分泌量が正常であっても小唾液腺からの分泌量が少ない場合、ドライマウスの症状を著明に誘発することが分かっている。ドライマウス(口腔乾燥症)〈写真〉 通院時、患者に手づくりの昆布だしを持参してもらうという笹野氏(右)(笹野高嗣氏提供)

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