Dentalism31号
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19 Dentalism 31 SUMMER 2018 間葉系幹細胞の移植により歯周組織が再生することはこれまでの様々な研究により明らかになってきている。歯周組織再生のために間葉系幹細胞を移植する場合、安全性の面からも歯周組織の炎症を抑えてからの施術が原則だった。 しかし、愛知学院大学歯学部の本田雅規教授、日本大学歯学部の井口慎也非常勤医員らの研究グループは、間葉系幹細胞が歯周病の進行を抑えることをマウスを使った実験で明らかにした。本田教授らは歯肉溝に糸を巻いて歯周病に罹患させたマウスを用いて実験。糸を巻いた同日に、糸を巻いた歯の周囲の歯肉に注射針で間葉系幹細胞を投与すると、歯槽骨の破壊が有意に抑えられた。間葉系幹細胞はマウスの大腿骨から採取し数日間培養したものを、歯の近心の歯肉だけに投与。近心側の歯槽骨破壊は抑えられたが、遠心側の歯槽骨については投与しない場合と同様に破壊されたという。 従来、炎症部位への細胞の投与は細胞が死滅するため禁忌とされていた。しかし、今回の実験により、炎症部位に投与した細胞でも数日間にわたり生存できることが判明。今回は骨髄から採取した間葉系幹細胞を使用したが、歯髄や歯根膜など他の組織の間葉系幹細胞でも今後実験していくとのこと。幹細胞を使った再生医療の確立にまた一歩近づいたと言えよう。間葉系幹細胞の投与で歯周病の進行を抑制。愛知学院大学歯学部 本田雅規 教授■ヘマトキシリン・エオジン染色による 組織学的解析にて歯槽骨の程度を 観察組織正常像正常なマウスの第2臼歯とその周囲組織の正常組織像。第2臼歯の歯槽骨は吸収していない。組織像結紮のみマウスの第2臼歯の歯肉溝に糸を巻いて5日目の組織像。第2臼歯の周囲の歯槽骨はほとんど吸収して消失している。組織像細胞移植マウスの第2臼歯の歯肉溝に糸を巻いた直後に第2臼歯の近心の歯肉に間葉系幹細胞を注射針で歯肉内に移植後5日目の組織像。第2臼歯の近心部と歯根と歯根の間の歯槽骨(*)が観察される。近心の歯肉に細胞を投与したため、遠心の歯槽骨は吸収しているが、近心の歯槽骨は残っていると考えられる。 う襍の進行の程度はQOLに直結する問題であり、定量診断に基づく適切な治療により口腔内の健康を維持することが望まれている。現状、う襍の診断方法はX線を用いた画像でチェックしたり視診や触診などでの診断が一般的だ。しかし、これらの診断方法では歯科医師の経験や技術に左右されるところが大きいことが問題。客観的・定量的かつ非侵襲的にう襍診断を行うことが求められている。 東京医科歯科大学生体材料工学研究所の宮原裕二教授と田畑美幸テニュアトラック助教の研究グループは、酸化イリジウムを材料とするマイクロpHセンサを製作し、世界初となる歯のpHマッピングによるう襍の定量的検査技術を開発した。研究グループは、歯科用探針に実装することを目的に、小型化・加工性に優れたIr/IrOXワイヤを用い、室温での理論値に近いpH感度を有するセンサを作製。このセンサを用いて抜去う襍歯の表層pH測定を行い、健康な歯根、非進行性う襍、進行性う蝕はそれぞれ6・85、6・07、5・30のpH値を有していることも分かった。 直径300μmの同センサは、凹凸や欠損といった歯表層の形態に左右されず、直接pH測定を行うことが可能であるだけでなく、染色による目視診断やX線による画像診断では識別できない歯間のう襍進行性も評価することができる。繰り返しの測定や、使用後のオートクレーブ滅菌も可能だという。 このpHマッピングを行うことで、保存や切除する場所が明確になる。歯科用探針に搭載して広く普及すれば、過剰な切除が少なくなりますます削らない治療が当たり前になるだろう。東京医科歯科大学生体材料工学研究所宮原裕二 所長・教授■う の高空間分解pHマッピング襍15100μm678234測定箇所pH5678う襍Ir/IrOx pHセンサ 参照電極6543171,8

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