Dentalism31号
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15 Dentalism 31 SUMMER 2018うにしてあげることは高齢化社会にとって大切です。その中心は歯科であることは間違いないのですが、それ以外の専門職種が同じような気持ちで患者さんの口腔機能を維持する手助けをしないといけません。オーラルフレイルをそういう多職種連携のキーワードというか共通語にしていきたいですね。――お医者さんが口腔機能の維持のために手助けできることというのは何なのでしょう?飯島 誤解を恐れずに言えば、医師は口腔機能に関して専門的に勉強する必要はないと思っています。自分のクリニックで歯がどうSpecial Interviewお医者さんの話を聞いてみよう!ないでしょうか。そして、このような付加価値のある歯科医院が今後人気となってくると思います。――口腔、食べる、栄養という観点で、もっと幅広く密に患者さんに接していかないといけないということですね。2つ目のメッセージは?飯島 私も含めた医師や栄養士や理学療法士など、歯科以外の医療専門職種に向けてのメッセージです。歯科以外の人は食べるということが重要だと分かっていても、所詮専門ではないという気持ちがどこかにある。人間にとって食べることが原点であり、最後の最後亡くなる直前まで口から食べられるよだとか舌圧がどうだとかを診る必要はありませんし、そもそも専門ではないので診ることができません。それよりも自分の医院の患者さんに、「かかりつけの歯科医院を持っていて、2、3カ月単位でメンテナンスに行っていますか?」と聞いてくれるだけでいい。今までは「痛くなってから行く」、「腫れてきたから行く」だったのを、痛くなくても定期的にメンテナンスに行くように促してほしいんです。それが結果的にあなたのためだと。口腔機能の話を歯科以外の人、特に医師が伝えることで患者さんには違うトーンで聞こえるはずです。3つめは、国民に向けて些細な口腔機能の衰えを無視してはいけないというメッセージです。私は高齢者医療、老年医学の専門医師ですけれども、もともとは循環器内科で狭心症や心筋梗塞など心臓関連の疾患の治療をしてきました。とにかく胸の症状というのは誰もが怖いんです。「大丈夫でしょうか? 今日寝ている間に死なないでしょうか?」と十人十色、些細なことでも来院されます。胸の異常は死に繋がるというイメージがあってとても敏感なんです。一方、お腹の症状になると、多少の腹痛では、食べ過ぎたかなとか食べ合わせが悪かったかなとか自己判断が入って薬を飲んで様子をみようとなる場合が多い。さらに、お口周りとなると所詮死ぬわけではないという感覚があって、忙しいとか面倒くさいとか怖いとか様々な理由で、歯科医院に行くのが遅れてしまう。要するに、お口まわりの異常は甘くみられているんです。しかし、些細な口腔機能の衰えでもそれを軽くみてしまうとずるずると泥沼に入って戻れなくなっちゃいますよと。些細な衰えのうちに、ひいては健康なうちに歯科医院に行ってメンテナンスをしましょうということを国民に伝えなければならないし、それが伝わらないといけない。――オーラルフレイル予防にとって歯科界の役割は重要ですね。需要がある反面、受け皿整備が大変になってくると思います。飯島 まさにそうですね。先ほど、トータルアセスメント、トータルサジェスチョンということを申し上げましたが、歯科医院の先生方がその重要性を認識し、幅広く多面的に口腔機能を評価できるスキルを身につけてもらわないといけません。もちろん、もうすでに実践されている先生方もいらっしゃると思いますが、まだ大半の先生は形態学的なアプローチのみで治療をされていると思います。歯科医師個人の意識変革や研鑽はもちろんのこと、日本歯科医師会をはじめ各地域の歯科医師会のバックアップも必要でしょう。さらには次世代の歯科医師を養成するという意味で歯学部教育も大切になってくるかと思います。それほど大きな課題ですから、半年や1年で変わるものではありません。歯科界が今まさに「口腔の機能論」の考え方に大きくウィングを広げてくださる大きなタイミングであろうと思います。

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