Dentalism31号
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Dentalism 31 SUMMER 2018 14付けておりまして、この段階を見逃してしまうと、徐々に不可逆的な身体面のフレイル期に移行してしまいます。実際に我々の調査でも口腔機能の衰えが少しでも重複すると、サルコペニア(加齢性筋肉虚弱性)や低栄養、食欲低下、食品多様性の低下が起こるリスクが高まることが判明しています。――オーラルフレイルというと歯のことをイメージしてしまいますが、口腔機能の低下と言っても色々あるのですね。飯島 もちろん口腔機能において歯は一番重要です。しかし、口の機能というのは様々あります。例えば、唇の周りの筋肉が衰えてくると食べこぼしが起こってきます。それから滑舌の面。タタタタタと早く言えるか、タ・・・タ・・・タ・・・タ・・・タと遅くしか言えないのかは舌の先端部分の筋肉が必要になってきますし、カカカカカの場合は舌の付け根部分の力が影響しています。という風に、唇も重要、しっかり噛むために口周りの筋肉も重要、飲みこむためには舌の筋肉も重要、口というのは決して歯だけで語られるものではないんです。しかし、市民の方々に口のケアをしっかりしていますかと聞くと、「はい。歯をちゃんと磨いています」としか返ってきません。すなわち、口の機能≒歯だと認識されている。しかし、これだけ超高齢化社会になってくるとそうはいきません。もっと幅広く口腔を診ていかないといけないのです。――口腔機能の維持という面で、歯科界の役割が大きくなりそうですね。飯島 大きいどころか、オーラルフレイル予防の主役は当然歯科界だと思っています。実は、オーラルフレイルという新しい概念には3つの狙いというかメッセージを込めているんです。一つは歯科界に向けての大きな期待です。歯科専門の先生からお聞きしますと、これまでの歯科界では、虫歯(う蝕)や歯周病などの歯を守るための形態学的なアプローチがメインであったとのこと。すなわち、しっかり噛めるようにという治療をメインでやってこられたと思います。しかし、口腔というのは先ほど申したように歯だけが重要なわけではありません。口腔全体を一つの臓器として、幅広くアセスメント(評価)して、サジェスチョン(示唆)できるように進化していただきたいのです。さらに、社会的フレイルの面でもケアしていただく必要があります。口腔機能の低下を防ぐためのパタカラ体操というものがありますが、効果はあるものの、毎日のようにパタカラと言い続け、滑舌のトレーニングばかりを日課のようにする方々はなかなか多くはいないかもしれません。だったら外で友達と喋る方が現実的で、社会性の意味合いでも有益なんです。また、高齢者にとって食べることが重要だと言われますが、高齢期における食べる力というのは歯が沢山残っているからとか咀嚼の筋肉が強いかどうかだけで決まっているわけではなく、食べる場の雰囲気とも強く関連しています。例えば、いつもお弁当を半人前ぐらいしか食べられないという一人暮らしの高齢女性が、友達が集まって食べると一人前のお弁当を食べられるということは多々あります。このような社会性という意味でも、歯を治療して終わりではなく、口腔を離れたところで患者さんとどういうコミュニケーションをとれるのかも重要になってくるのではフレイルチェックでは、「栄養(食・口腔環境)」、「身体活動、「社会性」を点検できる。【オーラルフレイル】 些細な口腔機能の衰え健康長寿のための『3つの柱』栄養(食・口腔機能)身体活動(運動、社会活動など)社会参加(就労、余暇活動、ボランテイア)QOL(口腔・全身)・生活機能口腔機能心身機能歯の喪失▲歯周病・齲蝕▲口腔リテラシー§低下(口腔への関心度)▲精神(意欲低下)心理(うつ)▲活動量低下▲生活の広がり【第1段階】社会性/心のフレイル期【第2段階】栄養面のフレイル期【第3段階】身体面のフレイル期【【第4段階】重度フレイル期※※滑舌低下食べこぼし・わずかのむせ噛めない食品増加食欲低下3.2倍食品多様性低下1.6倍咬合力低下舌運動の力低下食べる量低下サルコ・ロコモ2.3倍低栄養1.8倍代謝量低下摂食嚥下障害咀嚼機能不全フレイル要介護運動・栄養障害【§口腔リテラシーの候補】 ①口腔への無関心 ②口腔保健行動 ③口腔情報活用能力 等オーラルフレイル※回復する機能もあります疾患(多病)・多剤 飯島勝矢ら. 平成25年度老人保健健康増進等事業「食(栄養)および口腔機能に着目した加齢症候群の概念の確立と介護予防(虚弱化予防)から要介護状態に至る口腔ケアの包括的対策の構築に関する研究」報告書より引用より早期からのサルコペニア予防・フレイル(虚弱)①たっぷり歩こう②ちょっと頑張って筋トレ①お友達と一緒にご飯を②前向きに社会参加を①食事(タンパク質、 そしてバランス)②歯科口腔の定期的 な管理

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