Dentalism30号
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31 Dentalism 30 SPRING 2018 米国人約1万5000人を15年間追跡した大規模観察研究の付随研究で、歯周病が虚血性脳卒中、特に心原性脳塞栓および血栓性脳梗塞の発症リスクに関連することが示されたと、米・University of South CarolinaのSouvik Sen氏らがStroke(2018; 49: 355-362)で報告した。また、定期歯科受診が虚血性脳卒中リスクを低減する可能性があることも明らかにした。歯周の状態を7段階に分類 Sen氏らは今回、米国の4地域で1987〜89年に45〜64歳の白人または黒人1万5792例を登録し、動脈硬化の原因と臨床的続発症の解明を検討したARIC(Atherosclerosis Risk in Communities)研究のデータから脳卒中の既往がない1万362例のうち有歯登録者6736例(平均年齢62・3±5・6歳、女性55%、白人81%、黒人19%)を抽出。1996〜98年に、全歯を対象に6点法による歯周ポケット検査periodontal pro le classes(PPC)を用いて歯周病と虚血性脳卒中との関連を検討した。PPCでは歯肉炎指数、プラーク指数などの7指標に基づき対象の歯周の状態をPPC-A(健康)〜G(重症歯周病)の7段階に分類した。歯周病の進行で脳卒中リスクも上昇 歯周病を評価できた6736例のうち、中央値15年の追跡期間中に299例が脳卒中を発症。年齢、性などで調整後の虚血性脳卒中の発症リスクは、健康なPPC-A群に比べて歯周病群(PPC-B〜G)で上昇した(図)。 PPCの重症度が上昇するに伴い、虚血性脳卒中リスクの増加傾向が認められた(P<0.0001、2χ検定)。1000人・年当たりの虚血性脳卒中発症率は、PPC-A群で1・29(95%CI 0・92〜1・81)、軽度歯周病のPPC-B群で2・82(同2・08〜3・83)、歯肉炎指数スコア高値ののPPC-C群で4・80(同3・59〜6・43)、喪失歯ありのPPC-D群で3・81(同2・80〜5・17)、進行歯周病のPPC-E群で3・50(同2・64〜4・65)、重症歯欠損のPPC-F群で4・78(同3・69〜6・20)、重症歯周病のPPC-G群で5・03(同3・57〜7・07)だった。 虚血性脳卒中の内訳は、血栓性脳梗塞140例、心原性脳塞栓症79例、ラクナ梗塞61例、その他19例。歯周病群(PPC-B〜G)では、PPC-A群に比べて心原性脳塞栓症〔調整ハザード比(aHR)2・62、95%CI 1・22〜5・63〕および血栓性脳梗塞(同2・18、1・26〜3・78)のリスクが有意に上昇した。RCTでの仮説立証が待たれる 一方、脳卒中の既往がない全1万362例では中央値15年の追跡期間中に584例が虚血性脳卒中を発症した。定期歯科受診群(6670例)では、不定期歯科受診群(3692例)に比べて、虚血性脳卒中リスクが23%(aHR 0・77、95%CI 0・63〜0・94)低下歯周病が虚血性脳卒中リスクに定期歯科受診でリスク低減した。 Sen氏らは「歯周病が虚血性脳卒中の独立したリスク因子であることが示された。集中的歯周病治療は全身の炎症、高血圧、脂質および血管内皮機能を改善することがランダム化比較試験(RCT)で確認されているが、歯周ポケットの治療が脳卒中リスクを低減するという仮説はRCTでは立証されていない。現在進行中の試験の結果が待たれる」とコメントしている。(Medical Tribune 2018年2月1日号1ページより転載)健康(PPC-A群)軽度歯周病(PPC-B群)歯肉炎指数スコア高値(PPC-C群)喪失歯あり(PPC-D群)進行歯周病(PPC-E群)重症歯欠損(PPC-F群)重症歯周病(PPC-G群)1.86(1.16~2.97)2.06(1.21~3.51)2.03(1.26~3.26)2.22(1.41~3.50)2.08(1.29~3.35)2.20(1.27~3.81)1.00(ref)0.51.01.52.02.53.03.54.0脳卒中リスク調整ハザード比(95%CI)歯周の状態増加減少※人種/施設、年齢、性、BMI、高血圧、糖尿病、LDL-C、喫煙、喫煙指数(pack-year)、教育で調整(Stroke 2018; 49: 355-362)〈図〉 虚血性脳卒中の発症リスク(調整ハザード比)※Medical Tribune紙:1968年にわが国で唯一の週刊医学新聞として創刊されました。各種医学会取材による最新医学情報をはじめ、専門家へのインタビュー記事、解説記事など、研究や日常診療に役立つ情報を提供しているジャーナル
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