Dentalism30号
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17 Dentalism 30 SPRING 2018中島 平成25年から今までで5例の臨床研究を行いました。その結果、安全性に問題がないことを確認できましたし、5例中4例で治療後1ヶ月以内に歯の神経の感覚が戻り(残りの1例も8か月後には感覚が戻る)有効性も確認できたと思います。ただ、課題も見えてきました。歯髄幹細胞を移植する際に根管内を完全除菌しなくてはいけません。ご存知の通り象牙細管の除菌は困難で、歯を余分に削るため歯の破折の心配もあります。そこで、ナノバブルを使った薬剤導入法を考えました。ナノバブルは直径数100〜300nmの高圧ガスを含む水の泡なんですが、このナノバブルと薬剤の混合物を歯管内に入れることで、薬剤が象牙細管内の深くまで入り込み薬剤の浸透力がアップするんです。それにより歯を削るのも少量で済みますし、短時間で除菌できるようになりました。さらに、歯垢を洗い流したりバイオフィルムも除去することができるんです。――再生医療だけでなく、歯内治療にも有効そうですね。中島 ええ。歯科医師のみなさんの労力も軽減されますし、患者さですね。歯を失ってしまうと、噛む力がなくなったり舌の動きが鈍くなって滑舌が悪くなったり、口臭が出てきて人のコミュニケーションが億劫になるなど様々な支障が出てきます。8020運動で50%は達成できましたが、逆に言うと80歳の半分の人が歯を8本失っているということです。8本も歯を失って本当に大丈夫なんでしょうか。そこで、抜髄をして感染根管になっても抜歯までいかずに元に戻せないかと考えて、歯髄幹細胞で歯髄を再生できないかと研究してきました。――歯髄幹細胞の再生医療とは、具体的にどういったことをするのでしょうか?中島 親知らずなどの不要歯から歯髄幹細胞を採取し培養します。その細胞と一緒に補助的にG-CSF製剤とコラーゲンを患者さんの根管の中に詰めて冠をかぶせるという治療になります。ただ、移植した細胞がそのまま歯髄になると思われている方が多いですがそうではありません。この治療ではその細胞自身が移植先の組織の細胞になるのではなく、幹細胞が血管や神経を誘導する色んな因子を出していて、それによって再生がサポートされるというメカニズムなんです。――自然治癒能力を高めるということですね。中島 そうです。ただ研究段階では、採取した歯髄幹細胞をそのまま移植しても再生は成功しませんでした。石灰化してしまい、歯髄ではなく歯自体が出来てしまったんです。簡単に言うと、歯の中に歯ができてしまうという感じです。一言で歯髄幹細胞と言っても、その中にまた色々な細胞が雑多に入っていて、歯髄を再生するためには、歯髄幹細胞の中からわざわざ必要な細胞だけを分取してこなければいけませんでした。しかも、既存の機械での分取は高価で少量の細胞からの分取に向いていません。安全で効率的かつ安価に幹細胞を分取・増幅する必要性がありました。そこで、幹細胞は遊走能が高いことを利用して「幹細胞膜分取法」という細胞分離技術を開発したのです。これにより、神経と血管を誘導する細胞を分離することが出来ました。――臨床研究はどこまで進んでいらっしゃるんですか?歯髄再生により歯髄喪失による負の連鎖反応を遮断正常歯髄歯髄炎抜髄人工物充填感染根管治療根尖性歯周炎破折・抜歯顎堤減少インプラント周囲炎インプラント入れ歯ブリッジ咬合性外傷歯槽骨吸収歯髄・象牙質再生研究開発の意義歯の機能(感染抵抗力・歯の強度・咬合力)回復歯髄喪失歯喪失約20年以内15~20%20~45%家族の負担増加国家財政圧迫全身への影響要介護労働生産人口減少咬合・発音・味覚・触覚・審美性低下・QOL低下栄養不足・認知症・骨粗しょう症・運動機能低下

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