Dentalism30号
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13 Dentalism 30 SPRING 2018意味がある。だから、在宅からの連携ではなくて、まずは外来レベルでの連携が必要だと思います。――医科歯科連携が必要とされることの根本には、口腔環境と全身疾患との関わりがあります。長尾 糖尿病をはじめ生活習慣病全般に肺炎などの感染症、ガン、認知症、免疫疾患など関係していない病気はないぐらいです。ただ、医師にも歯科医師にもそのSpecial Interviewお医者さんの話を聞いてみよう!と、パーキンソンやALSなど嚥下が悪くなるような神経難病の患者さんを診るときは歯医者さんとの連携は必須ですね。ただ、在宅医療での医科歯科連携ばかりに焦点が当たっていますが、在宅になる前のもっと早い段階で連携することが大切だと思います。極端に言うと、余命1ヶ月の人に良い義歯を作っても意味が少ないじゃないですか。でも余命10年の人に良い義歯を作ってあげることは大いに意識が薄いことが問題です。加えて問題なのは、医師が口の中を診ないこと。患者さんを診察するときに血圧を測ったり聴診器を心音を聞いたりしていますが、それは私からすれば正直どうでもいいと思っています。一番大事なのは脈診と口腔内の視診なんです。口の中には舌や歯、上顎など患者さんお健康状態の情報が詰まっています。そこをすっ飛ばして、いきなり酸素飽和度なんていうのは全く間違っていますね。口の中を診ることが最良のバイタルサインの観察である。そんな単純なことが分かっていない。例えば、認知症の高齢者の場合、脱水によって認知機能が悪くなっている人がいっぱいいるんです。経口補水療法と言って水をすこしずつ飲むだけでいいんですが、まずその前に脱水の評価が出来ていない。脱水の評価をするには採血をしなければいけないと思っている医者が多いようですが、口の中を診ればすぐ分かります。多くの医者が病気と口の中は関係ないと思っていますが、大いに関係あるんです。医者が口の中を診る。まずはそういうところから連携が始まっていくのかもしれませんね。――医科歯科連携もそうですが、現在は医療の転換期と言われています。長尾 この20年間ぐらいで加速度的に価値観がガラッと変わると思います。現にすでに日本人の4人に1人は高齢者です。すぐに3人に1人になるでしょう。世の中のニーズはほとんど高齢者絡みになるんです。高齢者の定義が変われば多少話も変わってくるでしょうけど。まるで江戸時代が終わって明治時代が始まる。それぐらいの変化ですね。世の中が全く変わってきているのに昔と同じ考えでやるのはナンセンスです。しかも、あの時代は右肩上がりでしたけど、今回は右肩下がりで変わることになります。医科も歯科も頭を柔らかくして考えないと。今、全国各地で毎日のように勉強会が開催されています。医療に関わる様々なジャンルの方が参加して、ああだねこうだねと議論する。そうした中で、俯瞰した目で自分たちの役割は何なのかということを考えなければいけません。歯科の方々ももっともっと参加していただいて、一緒にこれからの医療について考えていきましょうと言いたいです。 当日も外来診療、ラジオ出演を終えた後に取材を受け、その後も難病患者の在宅診療に向かうという多忙なスケジュールを毎日こなしているという長尾院長。これまで経験したことのない超高齢化社会を見据え、常に患者が必要な医療、満足できる医療とは何かを考え続ける氏の姿勢を見ていると、今こそジャンルを超えて、医療の変革を実現させるときではなかろうかと思えてくる。

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