Dentalism30号
14/40

Dentalism 30 SPRING 2018 12なことを教えていただく貴重な場だと思います。特にこの超高齢化社会の中、医者として在宅医療をしないという選択肢はありませんでした。――特に高齢者医療において、「食べる」ことは重要なキーワードになりますね。長尾 食べるということは一番の人間の基本であり、最期まで食べるということが大きなテーマになっています。しかし現在の医療では、誤嚥性肺炎が起きると、すぐ入院しましょう、口から食べずに鼻から管を入れて経管栄養をしましょうとなりがち。そうこうしているうちにもっと食べられなくなって寝たきりになってしまう人が非常に多いです。もっと早期からう蝕や歯周病の口腔ケアや嚥下リハビリをしたり、食べるということをもっと支援すれば、おそらくそういう人も少なくなるでしょう。そういった中で一番必要な歯科医院に繋げるということが忘れられている気がします。そんな医師の意識も変えていかなければいけないですが、一般の方の歯や口腔環境に対する意識、歯科医院に対する意識も変えていかなければいけません。私自身は頻繁に知り合いの歯科医院に紹介状を書いたり、歯医者さんに行きなさいということを患者さんに言うのですが、患者さんもそこまで歯が大事だと思っておらず、歯科医院は歯が痛くなってから行くところだと思っているんです。――おっしゃる通り、一般の方の歯や口腔環境への意識はまだまだ足りないような気がします。長尾 多くの方は歯が痛いなどの自覚症状が出てから受診するというかたちで、予防という観点が不足しています。これは内科も同じですが、歯科はもっとそうですね。私の著書にも繰り返し書いておりますが、かかりつけ医とかかりつけ歯科医はセットで持っていた方が良いと思います。――そういう意味でも医科と歯科の連携はこれからさらに重要になってきますね。長尾 そうですね。ただ、医科歯科連携という言葉だけが先行していて実際には連携できていない、していないのが現状です。私は尼崎医師会の地域連携委員会の委員長を4年務めていましたが、連携を促進するために歯科医師会が歯科衛生士を2回まで無料で派遣してくれるなど色々な取り組みをしているんですが、ほとんど利用されていません。今後の医療では食支援が大事な柱であり、それには歯科医の皆さんの協力が必要なはずなのに、残念ながら医師の方にそういう意識が少ない。それから、歯科医からのアプローチが少ないことも連携が進まない原因です。私のクリニックでは近隣にある気心の知れた先生がいる歯科医院を紹介していますが、その他にどんな歯科医院があるか情報がゼロなんです。ちなみに私のクリニックの周りには数十軒の歯科医院がありますが、どこがどういう歯科医院なのかあまり知りません。どんな先生がいるのか、どんな専門性があるのか。患者さんからどの歯科医院が良いのかと聞かれても情報がない中で紹介しようと思っても紹介できないということもあります。長尾クリニックでは約40の病院と連携しておりますが、毎日色んな病院から機関紙が届いたり、実際に先生が来られたり、何かしらのアプローチがあるんです。しかし、歯科医院からは全くありません。歯科医院の先生からも情報提供やアプローチがあればもっとスムーズに連携が進むのにと歯がゆい気持ちがありますね。それから、私も毎月のように全国各地をまわって色んなイベントで講演をしたり、勉強会や親睦会にも参加していますが、ケアマネージャーや薬剤師の方は参加されていますが、歯科関係の人はあまり参加されていない。参加されていても話しかけてこられることはほぼありません。それほど医科と歯科では交流がないのです。医科と歯科が連携しなければいけないということはわかっていますが、どうしていいか分からないというのが多くの開業医、町医者の現状だと思います。――医科と歯科ではそんなに壁があるのですね。長尾 壁があるのではなくて、それぞれが勝手に壁を作っているんですよ。連携が大切な割に接点が意外に少ないんです。――実際に長尾クリニックではどのようなかたちで歯科と連携されていますか?長尾 外来診療の場合では、知り合いの歯科医院に患者さんを紹介していますし、在宅医療の現場では、大阪大学の野原先生の門下生のチームに胃ろうの方の嚥下評価などをしていただいています。あ医師、ケアマネージャー、栄養管理士などスタッフは100名を超える。

元のページ  ../index.html#14

このブックを見る