Dentalism29号
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27 Dentalism 29 WINTER 2017Medical Tribune紙:1968年にわが国で唯一の週刊医学新聞として創刊されました。各種医学会取材による最新医学情報をはじめ、専門家へのインタビュー記事、解説記事など、研究や日常診療に役立つ情報を提供しているジャーナル未解決の背景抗ウイルス治療進歩の陰で残された課題 近年、B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus;HBV)に対する抗ウイルス治療は大きく進歩した。HBVの増殖に不可欠なDNAからRNAへの逆転写を阻害する核酸アナログ製剤の登場により、HBVに起因する慢性肝不全は臨床現場からほぼ姿を消し、B型肝炎患者の予後が大きく改善されたことは明白である。 しかしその一方で、いまだに解決されていない課題が残されているのも事実である。まず、発がんの問題がある。 図に示すように、C型肝炎を成因とする肝細胞がんがこの20年で減少している半面、HBVによる肝細胞がんは減少していない。これには幾つかの要因が考えられるが、DNAウイルスであるHBVを体内から排除することが核酸アナログ製剤では困難であること、B型肝炎に対する治療適応が十分に浸透しておらず、本来治療すべき発がんリスクが高い患者が未治療のまま放置されていることなどが指摘されている。 さらに、HBV既感染者が全人口の20%強を占める日本では、HBV再活性化も重大な問題である。日本肝臓学会の「B型肝炎再活性化予防ガイドライン」はかなり周知されているが、抗がん薬や免疫抑制薬の進歩に伴う再活性化の事例は依然として少数ながらも出現しており、定期的なHBV-DNA量のモニタリングなど再活性化予防に必要な経済的コストも無視できない。解決することの意義肝細胞がんの撲滅とHBV再活性化の防止 核酸アナログ製剤は有効性・安全性がともにほぼ満足すべきレベルにあり、最近の製剤では当初問題となった耐性変異ウイルスの出現も克服されている。核酸アナログ製剤による肝細胞がん抑制効果は、少なくとも肝硬変患者においては明らかにされており、HBVに起因する肝細胞がんを減少させるためには、発がんリスクの高い患者を漏れなく拾い上げ、核酸アナログ製剤を投与する必要がある。 しかし実地医家にとって、日常臨床において遭遇するB型肝炎キャリアのうち、どの患者が高発がんリスクなのかを見極めることは必ずしも容易でなく、ともすると肝機能検査値(AST、ALTなど)が正常というだけで発がんリスクが低いと見なされてしまう。B型肝炎の発がんリスク(=治療の必要性)は肝機能検査だけでは判断できない。AST、ALTが正常の肝硬変は珍しくないのである。超音波検査などの画像検査、ウイルス学的指標(HBV-DNA量、HBs抗原量)を組み合わせて治療適応を判断しなければならない。 HBV再活性化については、いったん発症してしまうと核酸アナログ製剤でも治療は困難であり、ガイドラインを遵守し再活性化を予防することが欠かせない。究極的には日本におけるHBV既感染者を減らすことが最も重要な再活性化防止策である。私の解決法治療ガイドラインとユニバーサルワクチンの普及 以上の観点から、日本におけるB型肝炎の完全制御に向けた解決法は以下のようになる。 まず、B型肝炎患者に対する治明日の医療を読み解く50の未解決課題B型肝炎の完全制御療方針を広く周知することが必要である。日本肝臓学会では2013年に「B型肝炎治療ガイドライン」(http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b)を策定し、改訂を重ねている。これには治療目標や治療適応、薬剤の推奨などが記載されており、このガイドラインを実地医家レベルまで普及させ、治療すべきB型肝炎患者を見逃さないことが、B型肝炎による肝細胞がんを撲滅するための第一歩である。それと並んで、核酸アナログ製剤とは異なる作用機序を有し、細胞内のHBVを完全に排除しうる新規薬剤の開発も急務である。 B型肝炎の完全制御に向けた究極の対策は、特定の個人ではなく集団全体を対象とするB型肝炎ワクチン接種、すなわちユニバーサルワクチンの導入である。2016年には、日本でも0歳児に対するユニバーサルワクチンが定期接種化された。既に1986年に施行された母子感染防止事業とともに、このユニバーサルワクチンによって、日本におけるHBV感染者は徐々に減少していくと思われ、遠くない将来に撲滅することも期待できよう。(Medical Tribune 創刊50周年企画2017年10月5日号16ページより転載)(J Gastroenterol 2015; 50: 350-360)〈図〉 日本における肝細胞がんの成因帝京大学内科学講座田中 篤 教授■ BC陽性 ■ C型肝炎ウイルス■ B型肝炎ウイルス ■ 非B非C型1009080706050403020100(%)(年)P<0.000110090807060504030201200099989796959493921991
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