Dentalism29号
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23 Dentalism 29 WINTER 2017歯科に関する情報ソースにより、保健行動と歯周病の有病率に差。 歯周病を予防するための歯科保健行動は、歯科に関する知識の程度によって差があることは分かっていたが、知識の情報源によって歯科保健行動に差があるのかについての研究はなされていなかった。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野の森田学教授と岡山大学病院医員の谷口綾乃さんらの研究グループが行った調査によると、歯科医院で歯科に関する知識を得ることが良い歯科保健行動を促すこと、さらに歯周病の有病率にも影響を与える可能性があることが判明した。 研究グループは、岡山大学の大学生2220人を対象に、歯科医院で歯科に関する知識を得ている人とそうでない人を比較。前者は後者に比べ、1・49倍デンタルフロスを使用する傾向にあること、2・92倍定期的に歯科受診をしている傾向にあった。さらに、デンタルフロスを使用していたり定期的に歯科受診をしている人は歯周病に罹患している割合が少ないという結果に。一方、学校もしくはテレビから歯科に関する知識を得ている人はそうでない人よりそれぞれ0・69倍、0・71倍定期的に歯科受診をしている傾向にあった。その中でも全回答の30〜40%の学生が学校もしくはテレビから知識を得ていると回答しており、これらの情報源は良い保健行動を促すには効果的でない可能性があるといえる。 現代では様々な媒体から歯科の情報を得ることができるが、その情報源によって保健行動に差が出ることが立証された。歯周病の有病率にも影響を与える可能性も大きい。シチュエーションの違いもあるだろうが、情報の質を向上させることが歯周病の予防につながるかもしれない。岡山大学病院医員谷口綾乃さん 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学森田 学 教授■歯科に関する知識を得る場所によって歯科保健行動に差がある1.510.50オッズ比歯科医院学校有意な関連なし1.47倍2.92倍0.69倍0.71倍テレビ3210オッズ比歯科医院学校テレビデンタルフロスの使用定期的な歯科検診 所得や学歴が低いほどむし歯に罹患する頻度が高いということは知られている。しかし、この健康格差が子供の成長に伴ってどのように推移していくのかの報告は世界的に見ても少なく、特に未就学児における報告はこれまで存在しなかった。 そこで、東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の相田潤准教授らのグループは、厚生労働省が実施している「21世紀出生児縦断調査」の追跡データを用いて未就学児におけるむし歯治療経験の推移を明らかにした。調査は、35260親の教育歴で乳幼児のむし歯の健康格差あり。成長とともに拡大。人の子供たちの過去1年間にむし歯治療を受けた割合を、2歳6ヶ月から5歳6ヶ月までの期間について分析。過去1年間にむし歯治療を受けた割合は、2歳6ヶ月の時点で10%未満だったが5歳6ヶ月の時点で30%以上に増加。親の教育歴が低い家庭の子供ではむし歯治療経験は8・5%から41・5%に増加、一方、教育歴の高い家庭の子供では5・6%から31・5%の増加だった。 この情報により両親の教育歴で、乳幼児のむし歯の健康格差は拡大傾向にあることがわかった。健康格差は保健医療の知識の差というよりも、知識を行動に移せるだけの時間的・経済的な余裕の差から生まれている部分が大きい。そのため、家庭環境に影響されない乳幼児健診の場や幼稚園、保育園、小学校での対策が格差縮小に有効だ。またフッ化物の塗布など、乳幼児からむし歯になりにくい支援を充実させていくことも必要だろう。■むし歯治療を過去1年間に受けた子の割合50.040.030.020.010.00.0むし歯治療経験(%)2.58.55.63.514.720.94.523.131.45.531.541.5年齢(歳)両親とも低い教育歴両親とも高い教育歴(厚生労働省「21世紀出生児縦断調査」による全国の2001年(H13年)1月10日~17日と7月10日~17日の間に出生した子を追跡)東北大学大学院 歯学研究科国際歯科保健学分野相田 潤 准教授

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