Dentalism29号
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Dentalism 29 WINTER 2017 16重曹配合洗口液を使用した酸蝕症の予防の重要性 最近、酸蝕症がう蝕、歯周病と並んで第三の歯牙疾患として、マスコミなどに注目されています。東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野の北迫氏らの研究⑴では、およそ4人に1人に酸蝕症が発生していると報告されています。まさしく、歯周病、う蝕に次いで多い歯牙疾患である上に、歯列全体に短期間に広範囲に発生するため、早期発見と予防知識の普及が必要です。しかし、酸蝕症の診断は歯科医師によってバラバラなのが実情ではないでしょうか。 歯はう蝕原因菌の産生した酸によって脱灰されてう蝕となる他に、細菌が全く関与せず、口に入った炭酸飲料、フルーツ、酢、胃酸などの酸性物質でも直接溶かされ薄くなります。歯が薄くなる、歯の先端や奥歯に凹みがある、歯がしみるような時は酸蝕症ではないかと調べた方が良いと思います。当然、酸の強さが強いほど、歯との出した強力な胃酸による歯が溶ける環境を正すまでに時間がかかり過ぎます。そこで重曹を使うことにしました。重曹は食品添加物として認められた安全なアルカリ性の水に溶ける粉です。ベーキングソーダとして一般家庭でも手に入りやすい物質で、子供が間違って口にしてしまっても、しょっぱいために大量には摂取できません。ただし、高血圧や腎疾患などで、ナトリウム摂取制限をしている人は注意が必要です。胃酸逆流時の対応としては、①嘔吐物を速やかに水で洗い流す。②重曹を水に溶かしてブクブクガラガラうがいを口の中がさっぱりするまで何度も行う。③MIペーストを塗るか牛乳をしばらく口に含み、上下の歯全体に行き渡るようにする。④歯磨きは30分以上経過してから、柔らかい歯ブラシで優しく丁寧に磨くという指導をしています。重要なことは、胃酸によって強酸性になった接触時間が長いほど、唾液の再石灰化能や緩衝能などによる防御能が弱いほど、歯質の溶解は進行します。酸の強さは胃酸が最も強く、pHはおよそ1。悪阻、摂食障害、胃食道逆流症はもとより、食べ過ぎてげっぷをしただけでも胃酸は口中に漏出してきます。嘔吐による酸蝕症は若い女性に特に多く、発症が低年齢化する傾向にあります。 小学校の歯科健診で乳歯が極端に短い2年生の女の子がいたので、養護教員に聞いたところ、頻繁に気持ちが悪いと言って保健室に来ているとのことで、嘔吐による酸蝕症でないかと疑いました(写真1)。家族とも面談して嘔吐があることが判明。早期発見と適切な対応で永久歯には影響を及ぼさずに済みました。一般的に嘔吐した場合、口の中が酸っぱいために、水でうがいをして、それでも口の中が気持ち悪いため、歯磨きをする方が多いようです。しかし、酸で溶けた状態の歯の表面を磨くことにより摩耗が進行します。嘔吐の持続による酸蝕症はとても重症化しやすく、神経内科医や精神科との連携も必要になってくるでしょう。また、胃食道逆流症がある場合も消化器内科との連携が大切です。 当院では胃酸が口腔に逆流した場合、重曹を水に溶かして十分にうがいをして、まずは酸を中和するようにと指導しております。水では洗い流す効果はあっても中和することはできません。水だけでは何回うがいをしても口腔内に漏西村歯科医院 院長西村耕三氏1980年東京医科歯科大学歯学部卒業。1984年神奈川県高座郡寒川町にて開業。2004年東京医科歯科大学大学院う蝕制御学分野卒業。2005~2016年東京医科歯科大学歯学部附属病院客員臨床教授。JTコンセプトマスターコース浜松講師。日本歯科理工学会デンタルマテリアルシニアアドバイザー。口腔内環境を、なるべく早く歯が溶けない中性の環境に修正することにあります。 食習慣にも気をつける必要があります。胃酸ほど強い酸性では無くてもレモンやコーラなどはpH2程度を示します。喉に良いからとレモンの蜂蜜漬けを常用している人や炭酸飲料を多飲している人は多いでしょう。コーラのような飲料摂取後にすぐ歯磨きすることは酸蝕と摩耗が合併し、歯の欠損を進行させるために、30分程度経過後の遅延磨きが良いと北迫氏らのin situ研究⑵で報告されています。フルーツ、ドレッシングいっぱいのサラダ、酢を使った料理、ワインなど酸性の強い飲み物を摂取した後は30分経過後の歯磨きが良いのですが、朝や昼の忙しい時にはすぐ磨かなければ時間がありません。その場合は重曹の入った液体歯磨きである「バランサー」で口の中を中和してからの歯磨きを勧め写真1嘔吐による酸蝕症で乳歯がほとんど短くなってしまっている。下顎2~2は永久歯。(小学2年生の女子)。歯科医師が語る

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