Dentalism29号
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教育も医学部の教育も変えていく必要があるでしょうね。 そうした中、医学部は研修プログラムが変わってきて、若い研修医たちが在宅の現場に出てくるようになって来ました。短い時間でも、こういうフィールドの仕事を知り、こういうニーズが地域にあるんだってことに気づいてもらうのは大切なこと。病院で、病院に来る患者しか見ていなければ、患者は病気の治療だけしてもらいたいんだと思ってしまいますけど、地域に出ると治らない病気や障害を持った患者がこれだけいるんだということが初めてわかってくる。 歯医者さんもぜひトレーニングの場として、地域というフィールドにできるだけ人生の早い段階で出てみてほしい。キャリアとしてそういう方向を選べるというのは大きいかもしれません。――在宅医療を取り巻く環境や多くの人がいずれ迎える高齢者としての未来を明るいものにするために、今、考えておくべきことは何なのでしょうか。佐々木 我々はみんな、認知症にも、寝たきりにもなりたくない。だから筋トレもするし、大人のドその在り方を見直していかなければなりませんね。佐々木 日本の人口構造自体が大きく変化していて、2060年、僕が80代になる頃には高齢者が40%、子どもたちが13%、働く世代は47%になります。子供たちはむし歯にならず、働く世代は健康な歯を保っていて、高齢者になれば問題が起こってくるけど、その原因は齲歯なのかというとたぶんそうじゃない。 例えば医者の役割は高齢化に伴い、治療医学だけでは高齢者は守れないとわかってきたので、最近は、認知症とか緩和ケアとか予防医学とか、高齢者に関してはどんどんシフトしてきていますが、歯科に関しても若い人たちの歯科治療ニーズって、僕らの親世代が子供だった頃にくらべると、だいぶ少ないはず。今の高齢者は50代、60代で総入れ歯になった人も少なくないけれど、団塊の世代なんてむし歯の人なんてあんまりいない。 歯科治療をやっていくなら、子供たちと同じで、言っても口を開けてくれないような認知症の人とか、そういう人たちをどう治療していくのかというようなアプローチが必要かもしれません。歯学部のリルもするんですが、そういう努力をしても、長生きすれば認知症になり、いずれ寝たきりになり、人生の最後の10年は要介護か要医療で暮らすわけです。 健康寿命を延ばすのは大事だし、厚労省も経産省も総務省も、様々な政策を打ち、実際に健康寿命は延びた。でも、その分だけ平均寿命も延びるわけですから、たぶん最後の10年は縮まらない。誰もがいずれ認知症になり、寝たきりになる。そう思って暮らした方がいいと思います。 でも、そうなった時に、今の要介護高齢者みたいに一方的にケアされ、認知症になり、決定権を奪われ、むせるからといって食べたいものが食べられない。そういう社会はいやじゃないですか? 病気になったら医者が何とかしてくれるとは思わず、自分らしく最後まで生きるために、どのように暮らしたいのかを予めよく考えておき、そういう生き方が許される地域を作っていくことが大切です。 子や孫から家に一人でいないで老人ホームに入ってとか、入院しててとか言われる未来ではなく、認知症になっても明るく暮らせたり、足が動かなくても車椅子で外出できたり、多少むせてても「今日は寿司にトライ!」みたいな(笑)、そういう世の中を作っていこうとすると、在宅医療を中心とした地域の医療インフラを整備していく必要があります。 そして、高齢者が増えるコミュニティーをどう支えていくか、その人たちがどう楽しく暮らし、生活を継続していけるかを考えていかないと。だって彼らは未来の僕たちだから。僕はこのままの状態で歳をとるのはいやだし、誰も日本を悲惨な乳母捨て山国家のようにはしたくないですよね。 一念岩をも通す。 内に秘めた強い信念とは裏腹に、誰にとってもわかりやすい言葉を選びながら、淡々と静かに丁寧に語る姿は、医療人や経営者というより、さながら悟りを開いた禅僧のようであると感じた。在宅医療と向き合い、様々な課題に対して一つ一つ仕組みを作り、最適化を進めてきた彼の軌跡は、様々な取材記録や著書で知ることができるし、講演会や勉強会なども広く門戸が開かれている。今、我々が成すべきことは、彼が見据えている未来を共有することではないだろうか。15 Dentalism 29 WINTER 2017

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