Dentalism29号
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13 Dentalism 29 WINTER 2017左/日本の医療を変えるメディカル・イノベーターの一人として紹介され表紙を飾った『Forbes JAPAN』(プレジデント社)10月号。右/24人の医療介護専門家との対談を通して、超高齢化社会を明るい未来にする10の提言を記した著書『これからの医療と介護のカタチ』(日本医療企画)。――日本では年間死者数が130万人を超え、2040年にはその数が160万人になると言われていますが、在宅医療を中心に、自宅での看取りを受け皿としていくためには、誰もが意識を変えなければなりませんね。佐々木 向こう10年、20年で、首都圏の景色は大きく変わっていくと思います。2060年には街を歩いている住民の4割が高齢者(高齢者は歩かないかもしれませんが)。 日本人の7人に1人は認知症とともに生きることになりますが、 これは子供(未成年)の人数とほぼ同じくらいになります。 今みたいに何かあれば病院へ、認知症の人はグループホームへ、という構図は成り立たなくなる。保育園から高校までぐらいの施設と同等の収容施設を作るなんて無理ですよね。 ですから、何かあれば救急車で病院に行こうだとか、入院させてもらおうと思うのではなく、日頃からきちんと健康管理をするとか、万一入院してもできるだけ早く家に帰ってこようとか、あるいは病院に行っても治らないんだったら、病気を治すことは諦めても生活や人生は諦めない生き方を選択できるようにしていくことが大切になってくると思います。 かつて、地域のかかりつけ医がぼんやりと患者さんの身体全体を診ていた時代がありましたが、いつしか医療は臓器別の役割分担の時代に変わっていきました。 患者さんたちは、臓器別に立派な主治医がついているけれど、その人の生活や人生も含めて包括的に見てくれるお医者さんがいなくなり、その結果、例えば心臓に関しては最後までベストなトリートメントを受けられたけれど、最後は寝たきりで本人は幸せじゃなかった、というようなことが起こっている。 健康に生きることは大事なことですが、身体の健康というのは、あくまでも生活をするための道具なので、道具を守るために生活を失ってしまっては本末転倒。そこをバランス感覚を持って考えていかないといけないですよね。でも、それを個々の臓器の専門医に求めていくのは難しいので、人生がある程度のところまで来たら、臓器別から生活を含めて全体的に見られるお医者さんに少しずつシフトしていくことが必要ではないでしょうか。――かかりつけ医機能の充実や、在宅医療の必要性は高まるばかりですね。在宅医療の現場における歯科の役割や活用の現状、可能性については、どのようにお考えでしょうか。佐々木 悠翔会に在籍している歯科医師や歯科衛生士には、訪問歯科で義歯の調整や消化器官の入口としての口腔全体を診てもらうことが多いです。嚥下内視鏡を使用して飲み込みの評価も頻繁にしますし、少し特殊なPAPを作って舌の動きを助けたりすることもあります。リハビリをする上でも歯をちゃんと作っておかないと、咬み合わせの問題で力がうまく入らないこともありますから。 また、在宅の高齢者のほとんどは低栄養です。僕らが訪問診療をしている要介護の高齢者を調べてみると、MNAの栄養評価では49%が低栄養で、40%がアットリスク、全体の89%が栄養状態に何らかの問題がある。食事量の低下から低栄養になり、低栄養からサルコペニアやフレイルになり、動かなくなり、廃用症候群が進み、また食事量が低下するという悪循環に陥る。 食事をしっかり摂っていただかないと、この悪循環は止まらないのですが、実は口腔機能や口腔環境に問題があるケースは結構あります。初診の在宅に入ると、だいたい口の中には歯周病があったり、入れ歯が合わなかったり、舌が汚かったり、乾燥していたり、口臭があったり、何かしらの問題があるんですよね。 だけど歯医者さんには行けないし、家族も歳だからしょうがないのかなと思っているし、入れ歯な

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