Dentalism 28号
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Dentalism 28 AUTUMN 2017 12本田 歯髄に幹細胞があるとわかったのが2000年ぐらいです。間葉系の幹細胞が骨髄の中で発見されたのが1990年ぐらいなので10年ぐらいの差ですね。――再生医療には幹細胞が必要だと思いますが、そもそも幹細胞とはどういう細胞なのでしょうか?本田 幹細胞とは簡単に言えば受精卵のようなものです。色んな細胞になることができて、自分で増殖する力を持っている細胞です。私たちの体は病気や怪我をすると、この幹細胞が傷ついている場所に集まり分化・分裂を繰り返すことによって、失われた細胞を補い組織の機能を回復するという能力を持っています。傷が治るということはそこに幹細胞がいるということで、幹細胞は歯髄にもいれば骨髄の中にもいるし、脂肪の中にもいるし体のあらゆるところにいるんです。組織幹細胞の中には、間葉系幹細胞、上皮幹細胞、神経幹細胞、血液系幹細胞など種類があるのですが、歯髄細胞は間葉系幹細胞の中に含まれていて、象牙質や歯髄そのものの基になるんです。――骨髄や脂肪の幹細胞でも再生医療は行われていますが、歯髄細胞が注目されている理由は何なのですか?本田 もともと廃棄していたものということもあり集めやすいということが一番ですね。脂肪だと吸引しなければいけませんし、骨髄だったら腰に針を刺して採取しなければならないなど、間葉系幹細胞を採取するために何かをしなければならないので、なかなかドナーが集まりにくいということがあるんです。その点、歯髄細胞は抜けた乳歯や親知らずから採取できるので、ドナーの協力が得やすいというメリットがあります。他人の細胞を移植する同種移植では、あらゆる人をカバーするために多くの種類を集めなければいけません。単純に考えると、歯科医院で1年の間に抜かれる乳歯の数は20万本と言われておりますので、全国の歯科医院が協力してくれれば年間20万個の歯髄細胞が集まるということになります。それだけでも日本人全体の6、7割をカバーできますし、それを毎年やっていたらすぐに全人口をカバーできるようになるでしょう。――自分の細胞を使うこともできるんですよね?本田 本来は自分の細胞を使って治療するのが一番理想的です。しかし、そもそも病気にかかっている患者さんは幹細胞の機能が悪い場合がありますし、遺伝的に機能が衰えていることもあります。機能が悪い幹細胞を打っても治りませんので、そうなると他人の元気な幹細胞の方が有効になってきます。それ以上に、自分の幹細胞を使用するには前もって保管しておかなければいけませんので、将来的に歯髄細胞の再生医療を広めようと思えば、やはり他人の幹細胞を使えるようにしておくことが大切ですね。歯髄細胞だけでなく、身体の中の色んな幹細胞が使えて、自分のものでも他人のものでも使えるような土壌を作っておくことが理想だと思います。――歯髄細胞はどういう病気に効果的なのでしょうか?本田 脊髄損傷や糖尿病、脳梗塞、肝疾患など数えきれないほど様々な疾患に活用できるのではないかと言われています。中でも、やはり歯髄の細胞なので、歯髄を再生したり歯槽骨を作ったりするのに有効です。歯科医院ではう襍などで歯髄が感染すると、歯髄を抜く場合があると思うのですが、歯髄を抜くと空洞になり菌の住処になってしまうため人工材料を詰めますよね。歯髄があれば多少菌が入ってきても撃退してくれますが、歯髄がないと薬で撃退するしかありません。そうなると、感染したら薬を投与するという繰り返しで治療をすればするほど歯へのダメージが増して、歯の寿命が短くなってしまうんです。しかし、歯髄の外側の象牙質が残っている状態で歯髄を再生してあげれば、自己治癒能力が高まるだけでなく、そこから栄養が供給され象牙質の厚さも年々増して丈夫になります。ですから、出来るだけ歯を抜かずに治療することが大切になってきますね。歯髄の再生については、すでに臨床が始まっておりまして、5人の成功例の報告もされているんですよ。――歯周病の治療にも効果があるのですか?本田 もちろん効果があります。歯周病の治療にも薬が使われておりますが、薬と言うのは大体一つの効果しかありません。その点、歯髄細胞は色々な成長因子を出しますので、効果が複合的に生まれてくるのです。さらに、薬ですと一回の投与の効果は長く続きませんが、歯髄細胞ですとおよそ2週間体内に残りますので、その間ずっと効果の持続が期待できます。――実用化への期待が高まるばかりですが、これからの課題はあるのでしょうか?本田 まずは歯髄細胞の製薬化■診療行為別に見た抜歯数の推移(2005~2010年)706050403020100乳歯前歯臼歯難抜歯埋伏歯ヘミセクション2005年2006年2007年2008年2009年2010年抜歯本数(万本)年齢の階級ヘルスサイエンス・ヘルスケア Volume11,No.1(2011) 社会医療診療行為別調査を用いた歯の喪失状況の現状把握(安藤雄一)乳歯は一年間に20万本埋伏歯は一年間に2万本

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