Dentalism 27号
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乳歯や親知らずが役立つ歯髄細胞を活用した再生医療 京都大学の山中伸弥教授がips細胞を発見しノーベル賞を受賞して以降、日本では再生医療の機運が高まっている。そんな中、これまで歯科医院などで医療廃棄物として処理されていた乳歯や親知らずなどの抜歯した歯が再生医療にとって大切な資源になりそうだと注目されている。2009年に歯髄細胞バンクを立ち上げた『株式会社セルテクノロジー』の代表取締役・大友宏一氏に歯髄細胞を使った再生医療の現状と今後の可能性について話を伺った。感じますね。口の中というのは異物が入ってくるし様々な菌が入ってきやすい場所ですから、元々の細胞のレベルが高いのではないかと思います。口の中は幹細胞の宝庫ですね。││歯髄細胞を活用しての再生医療はどのようなものが考えられるのですか?大友 脳梗塞や脊髄損傷などの││歯髄細胞を使った再生医療とはどんなものなのでしょうか?大友 いわゆる歯の神経が歯髄組織と言われるのですが、その中には良質な幹細胞が含まれているんです。人間は元々自分自身を修復再生する能力を持っています。その能力の元になるのが幹細胞で、おかげで怪我や病気になっても自己修復することができているんです。しかし、人間一人の幹細胞の量は決まっていまして、年齢を重ねるにつれ幹細胞を消費していき、加齢と共に自己修復能力が落ちていきます。再生医療はこの幹細胞を増やして体に戻すことで、自己修復能力を高め、様々な病気や怪我を治していこうというものなんです。││幹細胞の中でも、歯髄細胞が注目されている理由は?大友 幹細胞は人間に200種類以上あると言われていますが、これまで再生医療に使用されていたのは、各々のバンクで知られるように、骨髄細胞や臍帯血でした。しかし骨髄を採取するのは身体に大きな負担がかかりますし、臍帯血は出産時にしか採取できるチャンスがありません。その点、歯髄細胞は非常に採取しやすい。歯科治療などで抜いた乳歯や親知らずを使うので、身体に与える影響はゼロです。しかもエナメル質という身体で最も硬い組織によって紫外線などの外的刺激から守られているため遺伝子が傷つきにくく、若々しい状態で保存されている場合が多いのです。さらに増殖能力が高く、短期間の培養で多くの細胞を得られる。例えば、脳梗塞に対する細胞医薬品を作る場合、たった1本の乳歯から1万人分の患者さんの薬が作れるくらいものすごく増えるんです。加えて、細胞自体も強く加工しやすいことで色々な治療用途があるというのもメリットです。本当に三拍子も四拍子も揃った細胞で、歯の潜在能力を株式会社セルテクノロジー代表取締役兼CEO大友宏一氏幹細胞による再生医療に可能性を感じ、2008年に同社を設立。細胞保管事業のほか、九州大学、岐阜大学、愛知学院大学や、第一三共やエーザイなどの製薬会社と新薬の開発を進めている。中枢神経疾患やアルツハイマーやパーキンソン病などの神経変性疾患に加え、歯科分野であればむし歯や歯周病の治療にも有効だと考えています。2015年11月に再生医療新法が施行されるまでに、ご自身の歯髄細胞を使った再生医療を4症例行いました。インプラントを目的とした顎骨再生が2例、脊髄損傷による後遺症に対する神経再生が2例で、いずれも一定の有効性を確認しています。脊髄損傷患者様はお二人とも受傷から10年以上経過し、これまで国内外であらゆる治療を試してみるも良くならず、首から下の重度な運動障害による車イス生活を送られておりました。ところが、ご自身の歯髄細胞で再生医療を行ったところ徐々に身体に変化が現れ、今では自力歩行を目指してリハビリ特訓中です。現在、再生医療新法にのっとり、多くの患者様に再生医療を受けていただけるよう手続きを進 Dentalism 27 SUMMER 2017 14■幹細胞バンクの比較採取チャンス骨髄臍帯血歯髄身体への負担細胞増殖対象疾患備考骨髄移植時大きい(麻酔が必要)高い血液のガンなど他人の細胞なので拒絶反応を起こす恐れがある出産時なし研究段階血液のガン・脳性小児まひなど細胞の保管事業が普及していて今後の利用拡大が期待される乳歯の生えかわりや治療による抜歯なしきわめて高い(複数回治療が可能)脳梗塞・血管障害・虫歯など治療範囲が広い最新医療インタビュー

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